構造計算書偽造問題

投稿者: | 2005年12月15日

建築じゃないけど、建設産業に関わる身として耐震強度を偽ったという事件はまぁ他人事と言えない部分もあったりなかったりする。どっちやねん。今回は、先日報道で見かけた「ある種のソフトウェアを用いると、国交省認定の計算プログラムの出力を一部書き換えて印刷することが可能であることが判明した」という記事に対する反応。
Adobe Acrobatって便利ですね。
てか、別に高いAdobe製品でなくても印刷イメージを編集できるソフトなんていくらでもあるわけで、今更「判明」て。第一、提出されたものは紙かも知れんが今時ほぼ全ての書類はデジタルで作るわけで、改竄できないデジタルデータなんぞないのだ。工事関係では何かにつけ写真の提出を求められるけど、写真が「真」を「写」したものだった時代は今は昔。Adobe Photoshopって便利ですね。お役人の皆様方、分かってるのかな。
構造計算の偽造については、使用プログラムを指定して入力データの提出を義務付け、検査機関側で同じプログラムを使って再計算すれば最終出力の改竄といった簡単な偽装は防止できるだろう。でも、入力データそのものの妥当性は?計算条件のチェックは?結局のところ、検査官の技術力に応じて難易度は変わってくるけどある程度のごまかしはいくらでも可能なのだ。
もっとも、実際の設計では悪意を持ったごまかしよりも意図しないミスの方がはるかに多い。土木の公共工事では設計と施工の発注は分離されているので、設計側がごまかしをするメリットはない。発注者はまず設計を発注し、それを元に予定価格を決めて工事を発注する。ある程度以上の規模の工事では、工事を受注した施工業者は着工する前にまず設計の照査を行う。つまり、渡された設計通りに施工して本当に大丈夫なのか、完成形は安定していても、途中の段階で壊れたりしないか、そもそも施工が可能か等をチェックするのだ。設計業者は仮設状態の安定や施工の容易性を見落とす事が結構ある。ごまかしてもメリットはないが、手を抜くのはメリットがあるのだ。台所事情の苦しさは設計業者も似たようなもので、人手不足からか近頃はかなり酷いミスも増えている。今時の設計プログラムはよくできていて、素人が適当に入力したものでも図面入りで綺麗な表紙もついた何百ページもの設計図書をほとんど自動で作ってくれる。その結果、応力の値が倍半分間違っている設計図書が誰にも気付かれず成果物として上がってきてしまうのだ。当然、発注者のお役人も見抜けない。
そういう訳で、公共工事に関しては最終的に施工業者が本気でチェックする。完成したモノが壊れた場合、たとえそれが設計ミスによるものであってもイメージの低下は避けられないし、より可能性の高い工事途中の崩壊だと作業員の生命に関わる。下世話な話をすると、より安全な(過大な)設計の方が工事価格が上がり、利益も増える。これが民間の場合、施主が「テキトーでいいから安く作って。イヤなら他に頼むよ」と要求すれば施工側は何とか従おうとする。そこで、公的機関又は委託を受けた民間業者がチェックを行うしくみが存在するのだ。
私が思うに、最大の問題は責任の所在があやふやなことである。だから誰も本気でチェックしない。建築確認を行った業者が賠償責任を負うようにすれば、本気でチェックするし、ややこしいものには許可を出さないだろう。設計者が悪意を持ってごまかした場合は当然設計者は刑事責任を問われるべきだが、それを見抜けず許可を出した業者及び個人の責任が減免されるべきではない。モラルだけでなく、問題が起これば自分が責任を負うというプレッシャーが必要だと思うのだ。施工に関しては当然施工業者が責任を負うが、ここでも責任の所在の明確化は必要だ。
これらのチェックシステムを確立し、消費者が安心して建物を購入できるようにすれば、間違いなく単価は上がるだろう。現在多くの業者は、安全性という最後の聖域を犠牲にしなければやっていけないような状態なのだ。ホントに、ちゃんとチェックしないとヤバイよ。

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