今年、2006年の初め頃にライブドアの社長及び幹部が証券取引法違反で逮捕され、株価が急落して市場が大混乱するという事件があった。当初から国策捜査との観測があったが、保釈もせず散々拘留して徹底的に捜査した割にはいざ裁判が始まってみると起訴事実としては目新しいものは出てこず、04年度9月期の50億円ちょっとの粉飾決済に風説の流布である。大騒ぎした割には、随分とケチな罪である。一方、必要以上に騒ぎ立てたために市場が混乱して日本経済全体が被った損害は計り知れない。もちろんその責任の一端はライブドアにあるわけだが、無責任に囃し立てたメディアの影響によるところも大きいと思う。
その関連で、今月に起きた事件が通称村上ファンドと呼ばれるM&Aコンサルティングの村上代表の逮捕である。容疑はライブドアによるニッポン放送株大量取得に関するインサイダー取引とのこと。この件に関しては、少なくとも私の周りでは阪神株の大量取得やその後の株主提案などで「やりすぎ」と検察に目をつけられた村上氏が別件で挙げられたという見方が多い気がするが、メディアの論調は相も変わらず村上悪玉論一色である。法律の運用上、ある程度恣意的な適用は仕方のないところはあるとは思うが、今回の検察はそれこそ「やりすぎ」だと思う。まず「あいつを検挙する」という決定があって、それから適用する法律を探してきたというのがあまりにあからさまだからだ。恣意的に運用するにしても、あからさまにやりすぎれば法治国家の前提が崩れてしまう。このあたりを指摘するメディアがあっても良さそうなものだが、現時点でマスメディアではお目にかかっていない。
そこへ持ってきて、今度は日銀の福井総裁がM&Aコンサルティングに1000万円ほど投資していたと叩かれている。曰く、国民が超低金利に喘いでいる間に金融政策の決定者たる日銀総裁が濡れ手に泡で儲けるとはケシカラン、かくなる上は総裁を辞職すべき、らしい。もうね、アホかと、バカかと。1000万なんて本人にとっちゃはした金だろ。それをどっかの投資ファンドで運用したからといって、金融政策に何か影響するのか。投資顧問でもしていれば問題だろうけど、預けているだけで何の不都合があるというのか。定期預金なら良かったのか?あるいは普通預金か?日銀総裁は一般の投資ファンドの運用成績に直接の影響を行使することはできず、一方国の政策金利を決定する権利は持っているのだが。個人資産を持つこと自体が禁止されていない以上、個人的な利害にとらわれず金融政策を行う上で個人資産を投資ファンドに預けるというのはむしろ極めて合理的かつ道義的だと思うのだが。そもそも、たまたま村上氏が逮捕されたから問題になっているだけで、これさえなければ個人資産をどこで運用してどれだけの利益を上げているかなんて誰も気にしないのだ。それが分かっていながら、よくもまあ鬼の首でも取ったように色々書けるものだ。
マスコミのお祭り騒ぎに悪乗りして野党も福井総裁の辞任要求なんか出そうとしているらしいが、今この舵取りの難しい時期にそれなりの評価を得ている日銀総裁を辞めさせることの意味を分かっているのだろうか。辞めないまでも、世間が騒げば騒ぐほど日本経済にとってはマイナスになる。ペンと剣とどっちが強いかは場合によるだろうが、言論が大きな力を持ちうることは確かである。その力は、プラスに働くこともあれば当然マイナスに働くこともある。マスメディアはそこの所をちゃんと認識して、責任ある行動を取って貰いたいものだ。