マイナスイオン

投稿者: | 2006年9月20日

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さすがにこういうのは見たことないか。一頃は一大ブームだった「マイナスイオン」だが、このところ少なくとも大手のメーカーが表立って宣伝することはなくなった気がする。結局のところ、その効果が科学的にも統計的にも証明されていないのと、そもそも「マイナスイオン」なるものの定義が曖昧なことからいわゆる疑似科学の一つという評価が定着しているのだろう。ちなみに、Wikipediaによれば
「マイナスイオンは、日本にて1999年ごろからマスコミに頻繁に登場し、2002年夏に流行のピークとなった流行語である。」
ということである。もうピークを過ぎて4年も経つのか。確か流行っていた頃にも一度調べてみたことがあるけど、その時はマイナスイオンなるものが何者なのか結局理解できずに「よく分からんけど何か胡散臭い」という程度の認識しかなかった。今よりは情報も少なかったのだろう。リンク先のWikipediaは情報の信頼性については色々言われているけど、何と言っても情報量は圧倒的だ。便利になったものだと思う。改めて調べてみると、ちょっとくらいは理解できた気分になった。
イオンというからには何かが電離しているわけで、そのうちマイナスに帯電しているものであることは名前から想像がつく。水溶液中で電離してマイナスに帯電しているイオンは高校の化学で習う陰イオン(negative ion)というちゃんとした科学的な名前があるので、これとは異なる。どうも、大気中に大気イオンというモノがあり、そのうち負の電荷を持つもの、具体的には硝酸イオンの水和物なんかをイメージしているらしい。大気イオンの何たるかは結局よく分からないままなのだが、放電等によって発生するもので、巷のマイナスイオン発生器も多くはこの原理だそうだ。ところで、元々電気的に中立な空気に放電によってマイナスイオンを作り出した場合、同時に同量のプラスイオン(というのかどうか知らないが)が発生するはずである。マイナスイオンの効用を謳っている宣伝文句の中にはプラスイオンの有害性を指摘しているものも少なくないが、これはどう説明するつもりだろう。
もう一つマイナスイオンの発生についてよく聞くのが「レナード効果」というものだ。滝壷の周りではマイナスイオンが多くて気分爽快でなんとかかんとか、というヤツである。これについては調べてはみたものの細かいところが曖昧で理解できなかった。水の粒子が分裂する時に帯電するそうで、大きい粒子はプラスに、小さい粒子がマイナスに帯電するらしい。で、そのマイナスに帯電した細かい水滴がマイナスイオンらしいが、別のところではプラスに帯電した水粒子が周りの「空気」をマイナスに帯電させると説明されていたりしてよく分からない。ま、水滴の帯電については摩擦による静電気でも説明はつくので感覚的に理解できる気がする。気はするのだが、ミクロな視点で帯電した水というものがどういう状態なのかが分からない。尤も、私の化学の知識は高校化学で止まっているので、エライ人にはちゃんと分かるのかも知れない。
何れにせよ、「マイナスイオン」という言葉に科学的な定義は存在せず、文脈によって大気イオンなり帯電した水粒子なりを指すかなりいい加減な概念であることは確かだ。もちろん、健康にいいとか静電気を除去するとか、その他諸々の効用は全く証明されていない。で、先に書いた通りブームの熱が冷めた現在ではマイナスイオンが健康にいいと本気で信じている人は少なくなったと思われる。少なくとも私は信じていない。
ただ、「科学的に証明されていない」というのは「間違っていると証明された」ということではない。正確には”現在のところ”証明されていないというだけのことで、将来証明される可能性はあるわけだ。マイナスイオンのように商売が絡むとブームになりやすい代わりに冷めるのも早いが、科学的には証明されていないが広く信じられていることというのは他にもたくさんある。宗教や占い等が分かり易いところだが、これらは元々科学とは一線を画しており、そもそも科学的な検証が試みられていない。そうではなく、一見科学的なのだが証明はされていない、いわゆる疑似科学について少し考えてみよう。
一例を挙げると、血液型性格診断である。少なくとも日本では広く一般に信じられているが、科学的には何も証明されていない。一方、他人のABO分類による血液型を、完全な当てずっぽうの25%をはるかに超える確率で言い当てる人が少なからず存在するのも事実で、これも統計学的に有意とするには根拠が弱いものの、論理的に完全否定するのは容易ではない。ちなみに、私自身は血液型のABO分類による性格の傾向は信じていないが、信じている人、例えば妻を論理的に論破できるかといえばはっきり言ってできない。
更に言えば、気功などを含む東洋医学全般は科学的根拠に乏しいものも多く、近代以前は欧米ではどちらかと言えばオカルト的なものと考えられたりしていた。ところが科学的な検証が試みられるようになるとともに評価も変わり、現在では治療プログラムに東洋医学的な手法を取り入れる病院もあるらしい。そして、普段から科学的・論理的であろうと心がけているつもりの私は「中国で昔から行われている」と聞けば科学的に証明されていようがいまいが割合簡単に信じてしまったりするのである。
疑似科学、あるいはそう見えるものを批判するのは簡単なようで、なかなか注意が必要なのだ。

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