避雷針

投稿者: | 2007年8月23日

昨夜の大阪は各地で激しい雷雨があったようで、我が家の近くでも派手に雷が鳴っていました。激しい雷鳴にちょっぴり不安げな太郎でしたが、住んでいる建物には避雷針が付いているから大丈夫と言うと安心したようです。稲妻が光ってから雷鳴が聞こえるまでの時間から雷の距離を割り出す方法などを教えると、「あー、いまは20びょうくらいやったから、もうだいぶとおいなー」とかしたり顔で言っていました。ちなみに、空気中を音が伝わる速さは気温によって違うのですが、15℃で約340m/sです。本当に差が20秒なら約7km離れていることになりますが、太郎のカウントはかなりいいかげんだし、そもそもかけ算はまだできません。

ところで、避雷針という物はいかにもこう、雷がそこを目がけて落ちてきそうな形をしていて、そこに誘導することで他の場所に落雷しないようにするための物だと子供の頃は思っていました。少し大きくなってから、だったらなぜ雷を「避」ける針なんだ、むしろ逆じゃないのか、と思うようになり、さらに大きくなって高校の物理か何かで電気のことや雷の原理なんかを習い、避雷針は先っぽの尖ったところから放電することで大地と雲の電位差をなくし、放電現象である雷を未然に防ぐ、つまり本当に雷を「避」ける働きがあることを知って積年の疑問が解けたのです。

ところが、今朝職場の同僚と話しているとほとんどの人(皆さん電気関係ではないけど一応技術者)が避雷針の役割は雷を誘導して、安全に落とすことで結果的に他の重要な部分の被害を「避ける」ものと理解していることを知りました。不安になってWebで調べてみると、自分が思っていた理屈は間違ってはいないものの、それでも落雷が避けられない場合は避雷針自身に落雷することで保護対象を護る役割もあることが分かりました。実際、避雷針への落雷はしょっちゅうあるようです。
それにしても、調べた範囲では放電による抑制効果について言及しているものはほんの一部で、「『避雷針』という名前が誤解を与えている」といった記述も多く見られました。どちらの役割が大きいかは場合によると思いますが、「避雷針に雷を避ける効果はない」と言い切ってしまうのはやっぱり間違いだと思います。
なお、避雷針は英語ではlightning rodやlightning protector(US)、lightning conductor(UK)等と呼ばれるそうです。lightning dischargerという言い方もあるようで、これなんかは抑制するイメージが強いように思います。

雷のメカニズムを簡単におさらいしてみましょう。水蒸気を含んだ空気が上昇気流で上空に上がり、冷やされて水や氷の粒になることで雲ができます。いわゆる雷雲になるのは積乱雲みたいに激しい上昇気流によって発生するもので、水や氷の粒が互いに激しくぶつかり合って静電気が発生します。で、理由は知りませんが上層に正、下層に負の電荷が蓄えられ、電位差が空気の絶縁の限界値を超えた時点で放電が起こります。放電の詳しいメカニズムは電離がどうたら、陽イオンがこうたらと難しいから省略。この放電は雲の中ですが、雲の下層が負に帯電すると地表では静電誘導によって正に帯電します。ここでも電位差が限界を超えた時点で放電が起こり、こいつが落雷となるわけです。
避雷針があると、上空の雲の下層と地表にアースされた避雷針の先端に電位差が生じ始めると、コロナ放電という現象が起こります。言葉は同じ「放電」ですが、こちらは電荷(この場合正の電荷)が少しずつ連続的に放出される現象で、結果的に電位差が中和されることになります。

つまり、電位差の蓄積がゆっくりであれば避雷針先端からのコロナ放電によって電位差は解消され、落雷は抑制されます。ところがコロナ放電を上回る速さで電位差が蓄積され、空気の絶縁限界を超えてしまうと雷が発生します。その場合、周囲で一番高く(雲に近く)、突起した形状である避雷針に落雷する可能性が高いので、結果的に他の部分への被害を防ぐ効果もあることになります。

以上、避雷針に関する蘊蓄でした。いんたーねっとの情報は玉石混合で、私もたまに大嘘をつくことがあります。この蘊蓄の二次利用は自由ですが、あくまでも自己責任で。

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