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投稿者: | 2007年10月22日

「ただいま」「おかえり」というやりとりはどこの世界でも(多分)普通にあるはずなので、日本語のようにほぼ固定した表現はなくても大抵の言語には相当する言い回しがあります。一方で「行って来ます」という、単なる「さようなら」や「また後で」といった別れ際の挨拶とは別に、出かける人が残る人に対して掛ける言葉としてのみ使われる表現は、寡聞にして日本語以外には知りません。当然ながら「行ってらっしゃい」というのも日本語特有で、普通は「気を付けて」のような言葉を掛けるんだと思います。ちなみに、「こんにちは」と「さようなら」のどちらにも使える表現を持つ言語もあります。イタリア語の”Ciao!(チャオ)”なんかがそうですね。スウェーデン語やデンマーク語の”Hej(ヘイ)”というのはガイドブックなんかでは「こんにちは」の表現として紹介されていますが、「さようなら」の意味でもよく使われています。
ところで、小学1年生の太郎は家に帰ってきたとき、10回の内8回くらいは「おかえりー!」と元気よく言っています。たまに、「おかえ…じゃなくてただいまー!」と自分で言い直すこともありますが、大抵は指摘されるまで気付きません。いつの間にか「てべり(テレビ)」は言わなくなったけど、えべれーたーは多分まだ健在です。
ま、そのうち直るだろうからあまり気にしてませんが。

言語ネタついでにもう一つ。食事の前後に言う「頂きます」「ご馳走様」という言葉は、料理を提供してくれた人や料理してくれた人への感謝に留まらず、食材から原材料の製造工程からそこに関わる人々から海山の恵みに至るまで遍く全てのもの、人に対する感謝を表す美しい言葉です。ある意味八百万の神々を崇めるアニミズムに通じる概念なので、アブラハムの宗教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教)がメジャーな国々の言葉にはない表現だろうと思っていました。もっとも、全部ひっくるめて「神への感謝」に帰着してしまえば結局似たような概念になるので、食前の祈りとか、その後の「アーメン(キリスト教の場合)」が「頂きます」に相当すると考えればほぼ同じ、としてもいいかもしれません。ところが、日本人で食べる前に「いただきます」を全く言わないという人は少ないと思いますが、自称キリスト教徒の欧米人で食前に祈りを捧げて「アーメン」とやっている人はどちらかと言えば小数派だと思います。カトリックでもムスリムでも、そんなに真面目じゃない多くの人は何も言わずに食べ始めるようです。ただし、私の個人的な経験や交友関係というのはかなり偏っている上に、多文化の人々が共生している環境では特定の宗教に基づく言動を控える傾向がある可能性は考慮すべきでしょう。
「頂きます」は一応「アーメン」及びそれに類する言葉がほぼ同意だとしても、「ご馳走様」は外国語で表現しにくい言葉です。文化的に似通っているはずの中国や韓国の言葉を知らないのが残念ですが、少なくとも英語やドイツ語にこの表現はありません。それで、何となく「日本だけが持つ世界に誇れる美しい言葉」だと思っていたのですが、デンマークに住んでいた時にその話をすると、「こっちでも言うよ。普通に」と教えられました。どうやら、北欧言語(北欧5ヶ国の内、文化・人種的背景の異なるフィンランドを除く4ヶ国の言語)には日本語の「ご馳走様」とほぼ同じ言葉があるようです。いずれも英語に訳すと”Thanks for food.”になるのですが、誰かに対して言う言葉ではなく、まさに「ご馳走様」なのです。最果ての異国で(言い過ぎ?)意外な共通点を見つけ、とても嬉しかったのを覚えています。国籍の違う何人かで食卓を囲んでいて、食べ終わったスウェーデン人が会話の流れのまま英語で”Thanks for food.”と言うとたまたま正面に座っていたドイツ人が怪訝な顔をして「俺が作ったんじゃないよ」と答えたりと、分かる人にだけ分かる感覚を外国人と共有するのは面白いものです。

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