市場シェアの統計学

投稿者: | 2008年10月9日

今やほぼ誰でも持っている携帯電話、中には一人で複数持っている人もいるので、総契約数はそろそろ人口を超えてるんじゃないかと思います。たろ父も会社のと自分のと2台持ち歩いていたときもありました。
各キャリアの契約数が毎月公開されているのですが、国内市場はほぼ飽和状態と言われながらも毎月契約数は伸び続けているようです。キャリア毎にその月の新規契約数から解約数を引いた「純増数」なるものも発表されていて、最近の1年半ほどはシェア3位のSoftbankがずっとトップのようです。
携帯電話のキャリアとしてはシェアトップがNTTdocomoでほぼ5割、2位のKDDIが約3割、3位のSoftbankが約2割で上位3社でほぼ独占しています。各社の純増数にはばらつきがあるものの、この割合はここ数年ほとんど変動していません。
2006年10月から始まった、番号を維持したままキャリアを変更できるMNP制度を利用した転入、転出の総数も公表されていて、制度開始直後はKDDIの一人勝ち状態でしたがこちらもここ数ヶ月はSoftbankの転入超過が多いようです。docomoについては制度開始以来一貫して転出超過になっているようです。
MNPによる転出入というのはキャリアの人気を計る1つのバロメーターになるとは思いますが、単純に数字の大小だけで比べるのは危険です。制度開始以来毎月転入する数より転出する数が多いdocomoは余程人気がないように思えますが、必ずしもそうとは限りません。元々シェアが大きいため、各キャリアから同じ割合で他社に転出するとしたら、必然的にトップシェアのところは転出の方が多くなってしまいます。逆にシェアが小さいところは転出する人数が少ない割に他社から転入する数は多くなるので、収支は転入超過になりやすいことになります。
MNPによる転出入からキャリアの人気を判断するのであれば、仮に各キャリアの人気が全く同じで、同じ割合でランダムに契約者がMNPで移動した場合の転出入比率を計算し、その値と比較しなければ正確な評価はできないことになります。もちろんMNPだけでキャリアの人気が計れるわけではなく、また人気のあるキャリアが良いキャリアということでもないのですが、純粋に数学的な興味としてこの仮定の比率を計算してみるのも面白そうです。

ということでやってみました。簡単にするため、シェアはdocomoが5割、KDDIが3割、Softbankが2割とします。各キャリアの契約数はそれぞれ5n、3n、2n(nは定数)と表せます。各キャリアから一定割合(pとする)の人が転出するとします。ある人がキャリアを移る確率は現在どのキャリアを使っているかに係わらず常にpです。転出した人の転入先はランダムだとすると、シェアに応じて例えばdocomoを転出した人は6割がKDDIに、4割がSoftbankに転入することになります。厳密には凄く大規模な移動が起こればシェアの比率自体が変わってしまうのでもっと複雑になりますが、実際には移動する人の割合はシェアに変化をもたらす程には多くないのでここではシェアは不変とします。
後は計算するだけですが、docomoだけ示すと転出数は5np、転入はKDDIからが3np*(5/7)、Softbankからは2np*(5/8)となります。各項のnpは定数なので除して比率だけを見ると、各社の転入超過比はdocomo:KDDI:Softbank = -32:15:17 くらいになります。これが、現在のシェアの下で全くランダムに契約者がキャリアを乗り換えた場合の比率ということになります。
2008年9月の実績では、この比率はだいたい -5:1:4 くらいです。この結果から、この月についてはやはりSoftbankの人気が高かったと言えるかも知れません。一方、先の計算条件を少し変えて、一定割合で人が転出するけど転入先はシェアによらず同じ、つまりdocomoから転出した5npの人が丁度半分ずつKDDIとSoftbankに転入すると仮定すると、各社の転入超過はそれぞれ-2.5np、0.5np、2npとなり、比を取ると -5:1:4 となって9月のMNP移動実績とぴったり一致します。1ヶ月のMNPのデータだけでは何とも言えませんが、ここからは「人は携帯電話キャリアを移るとき、移る先はシェアに関係なく同じ割合で選ぶ傾向がある」なんていう仮説を立てることもできそうです。
ちょっとした計算をするだけで、ただ数字を見比べているだけでは見えてこないことが色々見えることがあります。統計学って面白いと思いません?そんなこと考えて面白がってるのはオタクだけ?そうですか、そうですね。

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