2007年頃から大きな問題になっているソマリア沖の海賊問題に関して、2009年1月現在、日本政府の方針としては現行法の海上警備行動に基づき海上自衛隊の護衛艦を派遣するというもので、民主党も概ね同意しているようだ。自衛官には司法警察権がないので、海上保安官が護衛艦に同乗して対応するらしい。だったら初めから海上保安庁の巡視船を派遣すればよいと思うのだが、ロケット砲などで重武装していることもある海賊には対応できないという考えらしい。
確かに、日本近海の沿岸警備を目的としている船舶、人員で外洋の長期間に渡る警備行動、更に重武装の海賊に対応するのは荷が重いだろう。ところが、実は海上保安庁は正にこのような任務のための機材と人員を保有しているのだ。巡視船「しきしま」とその乗員である。「しきしま」は元々イギリス、フランスの核燃料再処理施設で再処理したプルトニウム燃料を日本に輸送する運搬船の護衛のために建造された船で、巡視船としては世界最大で、構造は基本的に軍艦と同じである。乗員も特別に訓練され、突撃銃などで重武装している。プルトニウム輸送がない時は尖閣諸島など離島の警備任務に就いている他、アジア各国に寄航して海賊対策共同訓練等にも参加している。
正に今回の任務に打ってつけのような船舶である。あくまで海上警察なので海外への派遣や海賊の取締りに際する武器の使用についても法的な問題がなく、自衛隊の海外派遣と異なり諸外国を無用に刺激することもない。考えられる問題としては現在のところ「しきしま」1隻だけで同型艦がなく、乗員だけ入れ替えて長期間の任務に就くような運用は経験が海保にはないなど、派遣が長期間になれば運用に支障をきたすことがあるかも知れない。また、本来の任務であるプルトニウム運搬船の護衛での安全性確保のため船体の構造やスペック、乗員名簿などは極秘とされており、海保としても国際的に注目度の高い任務に参加することでメディア等への露出が増えるのは好ましくないのかもしれない。
実際にはもっと私が思いつかないような問題もあるだろうし、議論を尽くした上でやはり海上自衛隊の護衛艦が適任と言うことであればそれもいいだろう。ただ、議論の俎上にものぼらないのはやや不自然に感じる。現実にインドネシア等と共同で海賊対策訓練も行っており、全く一考にも価しないとくことはないのではないか。自衛隊の海外派遣実績を作りたいがために敢えて無視しているとは考えたくないが、メディアなり野党なりは自衛隊法の問題を突き回す以前にもう少しちゃんと考えるべきことがあると思う。もちろん、それは有権者である我々の責任でもある。