このところのナノテクノロジー流行で、新規の研究案件にはとりあえず何でもいいから「ナノ」を付けとけば予算が通りやすいなんて話もあるくらい、「ナノ」はブームを通り越してバブルの様相を呈しています。
「ナノバブル」っていうのはそういうことじゃなくて、ナノサイズの気泡のことだそうです。以前からマイクロバブルっていうのはあって、大型船舶の船底に展開して水との摩擦抵抗を低減するとか、主に工業分野で真面目に研究されています。これがブームに乗ってどうせならマイクロなんてケチなこと言わずにナノにしちゃえ、ということになったのかどうかは知りませんが、2009年現在「ナノバブル」を謳った商品は数多く市場に存在しています。
ただ不思議なのは、マイクロバブルと違ってナノバブルの方は医療とか健康への効果を謳ったものが多いことです。妻の人が先日どこかで貰ってきたか買ってきたかしたペットボトル入りのナノバブル水も、何か体に良いというようなことが書いてありました。
ここまでの書きぶりでお気付きだと思いますが、私はこのナノバブル水なるものの効果はいわゆる疑似科学だと思っています。実際に、いくつか学会発表はされているようですが査読付きの権威ある論文誌には掲載されていませんし、医療分野でエビデンスがあると主張されていることに関しても少なくとも現時点では正しい科学の手続きを踏んだものはありません。もちろん、今はまだ解明されていないだけで将来何らかの科学的根拠が明らかになる可能性は否定できませんが、個人的にはこれもほぼないと思っています。
そもそも、マイクロバブルにしてもナノバブルにしても微少な気泡が水中で長時間安定して存在するということは通常あり得ません。水中で発生した気泡は表面張力に押し潰されて「溶けて」しまうか、それに負けないだけの大きさを持ったものは上昇して水面に達します。一応これに対する説明として、電子反発力で表面張力に対抗するとか、コロイドの性質で上昇せず水中に存在するとか言われていますが、あまりに力のスケールが違いすぎてダンプカーの動きをタコ糸1本で止められると言っているような滑稽さを感じます。こんな稚拙な「解説」がまかり通ってしまうのは、やっぱり「理科離れ」の問題なんでしょうか。それとも私が、何かとんでもない勘違いをしているのでしょうか。