トンデモ理屈

投稿者: | 2009年10月27日

太郎は誰に似たのかとても理屈っぽい子供なので、何につけても自分なりに納得できる説明がないと気が済まないようです。そこは所詮小学3年生なので、かなりトンデモな説明で納得していることもよくあります。なまじ説得力があったりするのでつい信じてしまいそうになることもあり、たまに実は本当のことだったりすることもあるのでなかなか油断できません。
トンデモな説明というのは何も子供の世界だけのものではなく、世の中にはかなりトンデモな理論が溢れていますし、意外と多くの人が信じちゃったりもしています。物理法則の分野で例を挙げると、古典的な所で「永久機関を発明した」とか「アインシュタインの相対性理論は間違っていた」とかはさすがに今さら多くの人を信じさせることは難しいでしょうが、今でもその手の論文を発表する人は後を絶ちません。最近知った所では「飛行機が飛ぶ理由はベルヌーイの定理では説明できない→だから現在の航空力学は間違っている」なんてのがあり、Webで検索してみると今でも信じちゃってる人がある程度いるようです。
鉄でできた何百トンもの飛行機が空に浮くなんて信じられない、というのは人間の直感として正常なものであり、「間違っていた」と言われて「やっぱりね」と納得したくなる気持ちは理解できます。熱力学の第2法則にしろ特殊相対性理論にしろ、直感的にすぐ理解できるものでもないというのがトンデモさんに活躍の場を与えているのでしょう。たろ父は色々な(恥ずかしい)事情で人より長く大学で勉強したので、物理法則については比較的理解している方だと思います。ベルヌーイの定理については水理学で学びましたが、普通の人が1年しか受けない講義を4年も受けている(ダメすぎ)のでかなり勉強しました。ですからこの分野についてはかなり自信を持って断言できるのですが、定説となっている理論が間違っていると主張するトンデモさんは、ほぼ例外なくその理論を正しく理解していません。
トンデモな理論を見破るには、必ずしもその分野の専門知識は必要ありません。ベルヌーイの定理を知らなくても、実際に毎日多くの飛行機が安全に飛んでいる事実と、飛行機が実用化されてから現代に至るまで数え切れない数の専門家による理論と実験の検証に耐えてきている事実を考えれば、根本的な理論が覆るなんてことがまずあり得ないのは理解できるでしょう。こういうのは常識的なセンスだと思うのですが、社会全体がこのセンスを共有するのは実のところなかなか難しいようです。学校では教えてくれないし(学校の先生はトンデモ耐性の低い人が多い気がする)、テレビなんかのマスメディアはどうしてもセンセーションを重視するのでむしろトンデモ理論に迎合しがちです。その結果、社会にトンデモ理論やそれを応用した詐欺や悪徳商法が蔓延るのです。
飛行機が飛ぶ理由なんてものは普通の人には特に実害もないマニアックな話ですが、標準的な医療を全否定する代替医療やワクチンの否定、怪しげな健康法など、医療や健康についてのトンデモは人命に関わる悪質なものも数多くあります。厄介なのは、多くの場合ビリーバーは全く悪意がないことです。
結局の所、身を守るには個々人が正しい知識と共に常識的なセンスを磨くしかなさそうです。太郎が将来どういう分野に進むにせよ、トンデモを見抜く常識センスはきちんと身につけてもらいたいと思います。

[蛇足の補足]
最近これまた脚光を浴びることの多い地球温暖化について、たろ父は元々懐疑的な立場でした。地質屋さんのとてつもないタイムスケールを垣間見たりしていたので、たかだか数百年程度の観測から有意な結論が出せるとは感覚的に信じられなかったのです。ところが、IPCCの第4次報告が出されて考えを改めました。専門的な勉強をしたわけではないのでIPCCの結論と懐疑論者の反論のどちらが正しいかを学術的に判断することはできませんが、科学の手続きをキチンと踏んで合意が得られた結論と自分の直感が食い違った場合には前者を信用するというのがより合理的な態度だと思うからです。これがつまり常識センスというものだと思っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です