九州電力の玄海原子力発電所で国内初のプルサーマルによる発電が始まりました。この「プルサーマル」っていうのは実は和製英語で、英語には特に決まった呼び方はありません。敢えて言えば「MOX燃料を使った発電」みたいな表現でしょうか。要するに、燃料の種類が異なるだけで技術的には従来の二酸化ウラン燃料による発電と何ら変わる所がないのです。
MOX燃料は日本語でもだいたいそのまま呼びますが、敢えて訳せば混合酸化物燃料です。それでは何のことだか分かりませんが、ウランとプルトニウムの酸化物を混ぜているということです。でもってプルサーマルの方は「プル」はもちろんプルトニウムで、「サーマル」はサーマルリアクターの略だそうです。つまり普通の軽水型原子炉のことですが、あまり一般的な呼び方じゃありません。「熱」中性子を核分裂反応に利用する原子炉、という意味です。
原子力を利用することには賛否があって、原子力発電に反対の立場の人がプルサーマルにも反対するのはまあ当然でしょう。ただ、そういう人が実際にいるのかどうかは知りませんが原子力発電はOKだけどプルサーマルはダメというのは論理的ではありません。電力会社がちゃんと説明しないのが悪いんだと思いますが、よく誤解されていることなので簡単に解説します。
発電用の原子炉で使う新品のウラン燃料にはプルトニウムは入っていません。すごく大雑把に言えば、「燃えるウラン」と「燃えないウラン」が入っています。この燃料を「燃やして」発電すると、燃えるウランはだんだん減って、燃えないウランと新たにできるプルトニウムが増えてきます。このプルトニウムも「燃える」ので、熱出力の一部は元々プルトニウムによるものです。日本では大体1年に1回燃料交換をしますが、全部入替えるのではなく、1/3くらいを入替えて、一つの燃料は3年くらい使うことになります。燃えるウランは日々減り続けてプルトニウムは増え続けるわけですが、平均すると熱出力の30%くらいがプルトニウムによるものです。新品のウラン燃料の代わりにプルトニウムを混ぜたMOX燃料を使うと、この割合が50%くらいまで上がります。それだけのことなので、管理する技術も安全性も特に何も変わりません。
そもそも何でこんなことをするのかと言えば、日本においては第一の目的は余分なプルトニウムを消費することです。プルトニウムというのは核兵器の原料にもなるものなので、テロリストに奪われたりしないよう厳重に管理する必要があり、要するに持ってるだけでも金がかかるシロモノです。しかもあんまり溜め込むと核開発をする気じゃないかといらぬ疑いをかけられかねません。元々の計画では余ったプルトニウムは高速炉という別の種類の原子炉で利用するつもりでしたが、高速炉が実用化できるのはまだかなり先になりそうです。原発を動かす限りプルトニウムはどんどん溜まってくるので、高速炉がモノになるまでは少しずつでも既存の発電所で使ってしまおう、というわけです。
このように、日本のプルサーマルはどちらかといえば後ろ向きな理由であり、技術的に目新しいことがあるわけでもなく、ウラン資源の利用率を上げる効果も高が知れています。エネルギー問題の解決に大いに役立つようなものではないので大げさに「国策」とか何とかしゃちほこ張ることでもないと思いますが、安全性についても大げさに心配することはありません。
反対しているグループの言うことも国や電力会社の説明も、どうも必要以上に大げさに捉えすぎているように感じます。何かに賛成するにせよ反対するにせよ、正しく理解して論理的に判断するよう心がけたいものです。