最近、ちょっと暖かかったりすると「やっぱり地球温暖化が」とか言う人がいますが、今年が寒かったり暑かったりするのは「気象」の話で、「気候」変動とは直接の関係はありません。今日は地球の気候の話を少し。
太古の時代の気候については分かっていないことも多いのですが、地球ではこれまでに少なくとも4回の氷河期があったとされています。氷河期というのは極地に氷床が存在している状態だそうで、それによれば現在も氷河期です。氷河期の中にもすごく寒い氷期と比較的暖かい間氷期があって、現在は間氷期で、最後の氷期が終わってから1万年くらいだそうです。過去数百万年ではだいたい4万年から10万年の周期で氷期が起こっているので、次の氷期が来るまではまだ数万年ありそうです。現生人類が誕生したのは20万年くらい前だそうですが、人類は過去に2回程度氷期を経験していることになります。
ところで、たろ父が以前働いていた関西国際空港は水深20m以上の海面を埋立てて造成していますが、海底のぶ厚い粘土層のため地盤沈下が大きな課題となっていました。粘土層というのは河川の上流で削られた土砂が重い(粗い)ものから先に沈み、最後に一番細かくて軽い粘土が河口付近に堆積してできます。つまり現在関空のある場所は過去に何度も陸地になったり海底になったりを繰り返して来たのです。関空の建設のために膨大な数のボーリング調査をしたお陰で、大阪湾の地質学的な研究が進み、かなり詳しいことが分るようになりました。最後の氷期の全盛期だった約2万年前には海面は今より100m以上低く、関空はもちろん、大阪湾は淡路島まで陸地でした。日本海もなく、当時の日本は大陸と陸続きだったのです。その後は気温の上昇と共に海面も上昇し、約6000年前の縄文時代に縄文海進と呼ばれる逆のピークに達します。現在の大阪市はほぼ全域が水没し、東大阪の辺りに海岸線がありました。当時のゴミ捨て場である貝塚が海から離れた内陸部で発見されるのはこのためです。
こういうダイナミックな気候変動や海進・海退を業務で扱っていたので、人為活動によるCO2の増加で温暖化が進んで過去100年間で平均気温が何度上がって…とかいう話を聞いても、そんなの誤差の範囲だろう、だいたい100年やそこらで何が分かるんだという気持ちが強く、どちらかと言えば懐疑的でした。ですから、2007年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書が出され、専門家の出した科学的な結論として現代の温暖化傾向と人為活動の影響を認めたのはたろ父にとっては大きなショックでした。
その後、折に触れて勉強し、IPCC報告書に懐疑的な意見やそれに対する反論などもかなりの数を読み込み、自分なりに納得できる程度には双方の論点を理解したつもりです。他の人に分かりやすく説明できるほどには理解していませんが、世界中の専門家が集まってオープンな議論で出した結論はやはりそれなりに説得力があると思います。ただ、直接的に何の利害関係もないたろ父でもショックを受けたくらいですから、何らかの利害があったりその道の専門家なりでIPCC報告書とは別の意見を持っている人が何とかして否定したくなる気持ちは分かりますし、陰謀論に逃げたくなるのも分からなくはありません。いわゆる温暖化懐疑論は取るに足らない陰謀論だけでなく、それなりに権威のある科学者からも数多く出されています。たろ父は専門外ですが、エンジニアの一般的な感覚として今のところ懐疑論にはIPCCの結論を覆すほどの根拠はないと感じます。
昨年はIPCCに参加していた科学者のメールが流出するというスキャンダルがあり、マスコミが面白おかしくクライメートゲート等と言って囃し立てたこともあり、「地球温暖化は嘘」というデマが未だにあちこちで語られ、それなりに信じ込んでいる人もいるようです。IPCCの報告書にはもちろん細かいところで間違いもあり、指摘を受けて修正された部分もあります。しかし、各国政府や研究機関などの公式な見解としては、温度差はありますがいずれも報告書の結論を支持しています。個々の事象(ヒマラヤの氷河消失など)についての誤りを指摘し、そこから人為活動によるCO2増加とそれによる温暖化傾向そのものを否定する態度は、例えるならば学校の先生が何か1つ間違ったことを指摘し、「先生は嘘つきだから今まで先生が言ったことは全部嘘だ」と主張するような稚拙さを感じます。
気候変動メカニズムの研究は純粋な自然科学ですが、温暖化対策の取組みは技術論だけでは済まず、多分に社会的・政治的な問題です。科学的には不確定要素が多くても、証拠が揃うのを待っていては対策が間に合わないためある程度見切りで行動する必要があり、強力なリーダーシップが求められるところでもあります。我々一般市民が技術論まで理解する必要はありませんが、国の主権者たる有権者として、専門家や政治リーダーの説明の真偽を判断する眼は持っておきたいものです。