人は、水なしでは生きていけません。飲料水だけでなく、食事に含まれる水分も合わせて毎日相当量を摂取する必要があります。そのため、水の安全性というのは人の健康にとって非常に重要です。日本は水資源が豊富なので実感しにくいのですが、多くの途上国では安全な飲料水へのアクセスが大きな問題になっており、水を「湯水のごとく」使う贅沢が許されているのはかなり稀な環境と言えるでしょう。
さてその恵まれた日本では、近年ミネラルウォーターの売上げが非常に伸びているそうです。自動販売機や店でお茶が売られるようになった頃、貧乏性のたろ父はなんでお茶みたいな、家で作ればほとんどお金の掛からないものにわざわざお金を出して買う人がいるのが理解できませんでした。それがいつの間にか当たり前になり、気がつけばお茶どころか水が、ジュース類とさして変わらない値段で売られるのが当たり前になりました。社会人になり、数百円の支出にはあまり頓着しなくてもよくなった今、出先で喉が渇けば大抵ミネラルウォーターを買っています。ブランドには全く拘らず少しでも安い方を買っているので、貧乏性については相変わらずです。
ミネラルウォーターの普及には、ペットボトルという容器が大きな役割を果たしているように思います。重くもなく、割れる心配もなく、飲みかけでも簡単に持ち歩け、歩きながらでも直接飲めるというのはとにかく便利です。ところが、スーパーなどの売り場では可搬性の高いサイズだけでなく、1.5Lや2Lといったどう考えてもお手軽に持ち歩くサイズでないボトルも数多く売られています。携帯用途だけでなく、自宅や職場での利用にも一定の需要があるのでしょう。
自宅やオフィスであれば、普通は水道が使えます。ところがお茶を作るために湯を沸かしたりするのが簡単にできる環境ばかりでもなく、何より面倒なのでペットボトルで済ませようというのは理に適っています。たろ父は貧乏性の上に面倒臭がりなので、職場では空のペットボトルに水道の水(浄水器は付いてる)を入れて飲んでいます。簡単で安上がりなのですが、皆さん味にこだわりがあるのか貧乏臭いのが嫌なのか、他の人がペットボトルに水を汲んでいるのは見たことがありません。
家族からはたろケチチ、等と揶揄されているたろ父ですが、水道水を飲むことにはケチ以外にもちゃんと合理性があることを示したいと思います。まず、ミネラルウォーターというのはあくまでも嗜好品であり、国内の基準も食品衛生法の清涼飲料水の分類です。片や水道水については衛生上の重要性から水道法という法律が特に定められていて、基準は「水質基準に関する省令」で定められています。当然ながら水道水の方が項目が多く、より厳しい基準値が設定されています。水道水の基準は、毎日2Lを摂取しても健康を害さないように作られているそうです。清涼飲料水であるミネラルウォーターはそれ程の大量摂取は想定していないので、基準値はざっと4~5倍緩く設定されています。実際に、市販されているミネラルウォーターの一部、特に輸入品は水道水としては不合格となるものもあるそうです。
つまり、美味しいからミネラルウォーターを飲む、というのは理に適っていますが、水道水よりミネラルウォーターの方が安全で体によいというのは完全に間違いです。炊事にミネラルウォーターを使う人もいるそうですが、全くの無駄です。そもそも、水道水の健康リスクの中で一番高いのは雑菌の混入です。2番目が恐らくヒ素、よく取り上げられるトリハロメタンはその次くらいです。ミネラルウォーターにしても同様で、夏場に飲みかけを長時間保存するのは危険です。
たろ父が職場でミネラルウォーターを買わないもう一つの理由は、ミネラルウォーターの流通というものがエネルギー的に壮大な無駄に思えるということです。所詮は「水」なので、大阪市水道局の水だろうが六甲のおいしい水だろうが、あるいはフランスのエビアンだろうが成分的にはほとんど同じです。一方、水は結構重いので輸送にはそれなりにコストが掛かります。輸入物のミネラルウォーターなんて、値段のほとんどは輸送コストでしょう。日本にいくらでもある水と成分も機能もほとんど変わらない水をフランスからはるばる船に載せて大量の燃料を燃やしつつ運んでくるというのは、経済的には意味があっても物理的、あるいは衛生的には純然たる無駄に他なりません。
ミネラルウォーターを買って飲む人にケチを付けるつもりは毛頭ありませんが、たろ父は自分の味音痴に感謝しつつ、地球とカラダとサイフに優しい水道水を飲み続けたいと思います。