mixiで言及したので、マイナスイオンについて改めて書いてみる。
まず是非は置いておいて、科学か否かという点に関してははっきりと答えが出ていて、科学的に定義されていないので科学ではない。当初は種々雑多のものをひっくるめてマイナスイオンと称していて、それこそイオンですらないものも含まれていたりした。現在は、家電メーカーは共通した見解として「空気中の原子や分子が電子を得てマイナスに帯電したもの」と回答しているらしい。
科学では、イオンとは電荷を帯びた原子または原子団とされ、そのうち負に帯電したものはnegative ionまたはanionと呼び、日本語では陰イオン、アニオンと表記する。大気電気学など一部の学問分野では、気相のイオンについては負イオンと呼んでいる。先の家電メーカー見解は正にこの負イオンを指していると思われる。尚、英語ではそのような呼び分けはないので大気イオン(空気イオン)を指す場合は明示的にatmospheric ion、air ion等と表記する。
この、負の空気イオンが健康に好影響を与えるという仮説は19世紀末から20世紀初頭にかけて一部の学者が提唱し、第二次大戦前頃までは細々と研究されていた。大気イオンを定量的に測定する技術も臨床効果を実証する論理も不十分な時代のことで、現在では完全に否定はされていないものの、主流とはなっていない。1950年代頃には健康機器としてのイオン発生装置がアメリカ等でちょっとしたブームになったりもしたらしい。ところが、放電によるイオン発生装置は副産物としてオゾンが生成することなどが問題視され、1960年代初頭に食品医薬品局(FDA)が警告を出してブームは萎んだ。
尚、Wikipedia日本語版の「マイナスイオン」から他の言語としてリンクしている英語のページは”Negative air ionization therapy”であり、季節性情動障害(SAD)や鬱への非投薬治療として高照度光照射療法と併用する治療法が紹介されている。詳しくは分からないが、参考文献がかなり最近のものなので現在でもこういう研究はされているようだ。
日本でのブームは1998年頃からだが、数十年前のアメリカで流行ったものを名前を変えて再登場させ、人気が出ると検証もせず次々に新たな「効果」を付加して独自に発展させていった。尚、FDAが問題視したオゾンの問題は原理的なものなので、現在市場に出回っている製品もコロナ放電でイオンを発生しているものは必ずオゾンも生成している。オゾンは強力な酸化剤なので、アンチエイジングなんかを気にする人は注意しておいた方がよい。
科学的にはマイナスイオンの効果とされるものは何ら実証されておらず、一方オゾン等副産物による害も量的には気にするようなレベルではないので、基本的には毒にも薬にもならないものと考えておけば間違いない。マイナスイオンに高い金額を払う価値はないけど、欲しい製品にマイナスイオン発生装置が付いているからといってその製品を避ける必要もない。マーケティングとしては、付加価値を「創造」して需要を開拓するというのは高度かつ効果的な手法である。その付加価値に実態がなくても、ビジネスとしては成立する。技術者の立場からすると不誠実きわまりないけど、まあ商売としては上手いことやってるんだろう。