仕事でリスク評価についての資料を見ていて、面白いものを見つけたので紹介します。何かによって人が死ぬリスクを寿命短縮日数という指標で定量化したものです。出典はThe Nuclear Energy Option, An Alternative for the 90s (B.L.Cohen, 1994) です。さっそく見てみましょう。
行為 | 寿命短縮日数 |
独身(男性) | 3,500 |
喫煙(男性) | 2,250 |
心臓病 | 2,100 |
独身(女性) | 1,600 |
30%肥満 | 1,300 |
ガン | 980 |
脳卒中 | 520 |
飲酒 | 230 |
自動車事故 | 207 |
肺炎/インフルエンザ | 141 |
自殺 | 95 |
殺人 | 90 |
大気汚染 | 80 |
エイズ | 70 |
火事/火傷 | 27 |
自然放射能 | 8 |
航空機墜落 | 1 |
原子力産業 | 0.02 |
地層処分 | 0.007 |
屋内煙検知器 | -10 |
エアバッグ | -50 |
原典を見ていないので詳しくは分かりませんが、著者のコーエン先生はピッツバーグ大の人のようなのでデータは恐らくアメリカのものでしょう。日本だと自動車事故や殺人のリスクはもっと低いのでしょうか。
複合的要因をどう計算しているかがよく分かりませんが、男性が独身である事による寿命短縮日数が10年近いというのはちょっと驚きです。女性だとそれが半分以下になるというのも興味深いですね。実際、パートナーに先立たれた後、早めに後を追うのは女性より男性の方がかなり多いような気はします。30%肥満というのがどの程度なのか不明ですが、寿命への影響はガンよりも大きいそうです。
元の本が原子力のリスクに関するものなので原子力産業や地層処分なんてのが入ってますが、要はリスクというモノサシで測れば原子力の危険は無視できるレベルですよ、ということが言いたいためのリストです。
最後の2つは寿命短縮日数がマイナスですが、つまりこれらを使用すれば寿命が延びるということです。直感的には煙検知器の効果はもっとあっても良さそうですが、元々火事や火傷で死ぬリスクはそんなに高くないということでしょう。
リスクというのは特にそれが極めて小さい場合にはなかなか実感として捉えにくいもので、それが政策決定や公衆への説明の場で定量的な評価を難しくしている面があります。「ゼロリスク幻想」がはびこる社会ではそもそもリスクコミュニケーション自体がなかなか成立しないのかも知れませんが、寿命短縮日数のような直接人の生死を表すモノサシは結構有効かも知れません。