2012年4月14日版のThe Economist誌のドイツ経済についての記事を翻訳してみた。
Modell Deutschland über alles
http://www.economist.com/node/21552579
世界がドイツから学ぶべきことと学ぶべきじゃないこと
先進国の多くはドイツに魅せられている。硬直化したヨーロッパの中心部にあって、過去10年以上、一人あたりGDPはG7のどの国よりも伸びている。トラブル続きのユーロ圏では失業率が単一通貨誕生以来の高い水準なのに、ドイツでは記録的な低さだ。ほとんどの先進国で製造業の輸出は激しい国際競争に打ちのめされてるのに、ドイツでは今も強力な成長の牽引役だ。風当たりの強いフランス、スペイン、イタリアにイギリスの政治指導者たちが切実な思いでドイツを羨むのも無理はない。
最近のドイツの成功のルーツには、古いものと新しいものがある。ほんの10年前は、まだ東西統合のコストに苦しみ、経済はボロボロだった。そこからの躍進で、ドイツは高賃金の国が高付加価値の製造業で成功できることを示してきた。しかも労働単価を高騰させることなく。ドイツ人達は、長きにわたって公的金融を修復してきた。財政赤字はGDPの1%に過ぎず、GDPに占める公共支出の割合はヨーロッパ平均よりずっと低い。債権利回りも記録的な低さだ。2003年に社会民主党主導のシュレーダー政権が始めた2010行動計画による所が大きいのだが、ドイツは労働市場規制の多くを自由化してきていて、それが今日の皆が羨む低失業率の理由の一つになっている。
もう一つ、ドイツの最先端技術は実は古くからの武器なのだ。この国の企業が持つミッテルシュタンド(Mittelstand:中堅企業)文化は19世紀後半に成立し、現在は製造業のニッチな分野に特化していることが多い。驚くほど回復力が強く、多用途という特徴もある。そのため、急成長する高級品需要と新興国の普及品需要の両方でメリットを受けてきた。そして、ドイツ法人の「共同決定(Mitbestimmung)」モデル、つまり労働者が経営に一言言える制度のため、構造改革を進めるのも賃金を抑えるのもやりやすかったのだ。さらに、ドイツの伝統的な徒弟制度と職業訓練(350からの業種にさん分化されている)も、若者の失業率をヨーロッパのどの国より低く抑えるのに役立ってきた。
最上級のお世辞
では、ヨーロッパの弱い国は何を真似すればいいのだろう。もちろん、労働市場ルールの緩和だ。イタリアが身をもって理解した通り労働市場の自由化は経済が落ち込んでいるときには難しいのだけど、この動きは既に始まりかけている。さらに、役立たずなことの多い大学の学位を量産する代わりに職業訓練を強化すべきなことも大切な教訓だ。ただ、ドイツでうまく行っている多くのこと、協調組合主義とか、商業文化とか、製造技術とか…は、伝統的な文化の一部なので、簡単に他国に移植できるようなものではない。
そしてドイツのご近所さんは丸ままドイツのモデルを輸入すべきでもない。例えば工業での協力的な労使関係は賃金を抑えるのには役立つけど、株主利益も低くなるかもしれない。それにドイツの製造部門は生産的でも、せービス部門はそうでもない。サービス業は今やGDPの2/3にもなるのだ。ドイツの金融業界は稼ぎが悪いし、これまで何度も危なっかしい海外資産(アメリカの腐ったモーゲージとか)に投資してきた。人口統計の見通しもよろしくない。移民を除く人口は縮小している上に急速に高齢化が進み、しかもドイツは移民の受け入れには消極的だ。
何よりドイツの成長より質素を重んじ、消費より貯蓄を、内需より外需を重視する哲学は多くの場合有害だ。これのせいで、ドイツ人の生活水準は頭打ちだ(急成長にもかかわらず、個人消費の伸びは過去10年以上ヨーロッパ他地域より低い)。それに、ドイツが実効的に需要にブレーキをかけたことは他のユーロ圏にとっては壊滅的だ。今週スペインとイタリアの債権を売り払った投資家は、公共負債レベルを心配するのと同じくらい行き過ぎた緊縮財政を心配している。ドイツの輸出依存は巨大な貿易黒字を産むけど、それは同じ額の貿易赤字を相手国にもたらし、結果的にユーロ危機を加速しているのだ。
他のヨーロッパ諸国に対して緊縮財政と賃金抑制ばかりを求めるドイツの政治家は、成長のゴールは個人の収入(と消費)を増やすことだということと、輸出の本当の利点は輸入により多くを使えるようになること、というのを忘れているようだ。ヨーロッパの他の国はドイツから良い所を学ぶべきだが、ドイツ自身も貿易相手国から内需を拡大、維持することの重要性を学ばなければいけない。そうすれば、ユーロ圏全体の暮らし向きが良くなるだろう。