「カレーハウス CoCo壱番屋」が、かつてご飯の量が1300gのカレーを20分以内に食べきれば料金が無料になるという「大盛りチャレンジ」なる企画をやっていたことをご存じだろうか。調べてみたら、2003年8月で終了したらしい。残飯の発生量を増やす原因となっていて、食品リサイクル法による廃棄物削減義務が直接の理由らしい。
この手の企画が、基本的にバカでネタ好きの大学生、特に食事の乱れがちな下宿生にスルーされるわけが無く、嫌がる下級生に無理やり挑戦させるというのがある種定番となっていたのも当然だろう。食べ物を粗末にするのは恥ずべき行為なので、よい子は決してマネをしないように。もうできないけど。
私が別の意味で恥ずべき理由によって長い長い学生生活を送った京都の町は大学の数が多く、学生の多い町だ。大学の近辺には味や質より量を売り物にした学生相手の食べ物屋も多い。大盛り無料や食べ放題の企画を打つ店は珍しくなかったが、ほとんどの企画は長続きしなかった。京大アメフト部のクラブハウスがある北白川に無謀にも食べ放題を謳ったパスタ屋がオープンしたときは、ギャングスター(京大のアメフトチーム名)たちに蹂躙されて3ヶ月ほどで店を畳んでしまった。
お気に入りだった店がランチのご飯おかわり自由を止めてしまったのは、毎日のように通い詰め、最低2回はおかわりしていた某先輩のせいだと思っている。しかも毎回大盛りで。私はちゃんと気を遣って大盛りなら1回、2回の時は普通盛りにしてもらっていたのに。
そんな中、CoCo壱番屋の1300gカレーは私の長い在学期間を通して企画を提供し続けた唯一の例である。射幸心と成功率のバランスが絶妙で、利益を圧迫しない上手い設定だったのだろう。なお、1993年の米騒動では一時中断しているらしい。そういえばそんなこともあった。私は安いタイ米を普通に美味しく食べられたのでむしろ食費は助かったけど、多くの人がタイ米を毛嫌いし、タイ人留学生が悲しんでいた。全くもって失礼な話である。
さて、私は体格は普通なのだが、若い頃はかなり大食いだった。初めて1300gカレーに挑戦したのは先輩に連れられて無理やりだったけど、目の前に運ばれてきた皿を見た瞬間「いける」と確信した。時計と皿の残量を見比べながら一定のペースを維持し、時間をいっぱいに使ってそれほど苦労せず食べきることができたのだ。
今の大学生はお利口になっているから心配ないかもしれないが、当時私の周りにいた学生はみんなバカだったので、先輩と一緒に行く「食べ放題」は極めて危険なシロモノだった。ココイチ初挑戦の前の週にも別の先輩に連れられて焼き肉食べ放題に行ったのだが、終わりが見えず非常に苦しい思いをした。それに比べ、量のゴールが明確な1300gカレーは気分的にかなりラクだったのだ。
成功に味をしめた私は、その後何度か先輩に強制されたわけでもないのに自主的に挑戦した。いや、食べきれると確信を持ってオーダーしているので挑戦などというものではなく、食費の節約である。調子に乗って、わざと高価なトッピングを頼んだりもした。時間内に食べきれば、トッピングを含め全て無料になるからだ。サイコロステーキのトッピングを頼んだときは少し危なかった。以外とおなかにくるのだ。
店の方もリピーターは想定しておらず、挑戦は何度してもよいが一度成功したらそれまで、と決めている。成功者は記念写真を撮られ、写真は店内に展示されていた。店舗間では成功者情報の共有はされておらず、実質的に制限は各店舗1回のみ、ということだった。生活圏内に3店舗、自転車で少し足を伸ばせば更に3店舗ほどあり、当然ながら全店制覇した。また、同じ店舗でも写真で確認するだけなので、よほど店員の印象に残っていない限り複数回成功しても大丈夫だった。実際に、展示されている写真をよく見ると明らかに同一人物がいた。もっとも、実際に「お客さん、前にも成功してますよね」と断られた友人もいるので、全くチェックしていないわけではないようだ。
私は同じ店舗で実は3回成功している。コツはいかにも初めて挑戦しますという雰囲気を醸し出す演技力と、なるべく印象に残らないよう特徴的な言動、服装などを控えることである。店員だけでなく、客の中には暇にまかせて店内に展示してある写真をつぶさに見ていて、「あれ、あの人この写真の人と一緒」などと余計なことをいうヤツ…もとい、丁寧に通報して下さる方もおられるので注意が必要だ。店の規定を故意に破って不当に支払いを逃れる行為は厳密には犯罪行為なので、よい子は(以下略)
今でもそうだと思うが、ココイチのカレーはごはんの量だけでなく辛さも選べるようになっている。1辛から10辛まであって、普通の味覚をもった人が食べられるのは3辛くらいが限界じゃないだろうか。ちなみに、6辛以上は過去に5辛のカレーを完食した人しか注文できない。私は今でこそ辛いものも普通に食べられるようになったけど、若い頃はからっきしダメだった。1辛は何とか食べられたけど、2辛以上は食べたことがない。当時の友人にはバカなだけじゃなく胃腸が異常に強かったり、怪我をしても爬虫類のような再生能力を発揮するようなヘンなヤツが多かったので、1300gプラス3辛を食べきったり、10辛(量は普通)を完食したりするヤツがいた。かなり凄いことだと思うけど、あまり尊敬の念は沸かない。