仕事と家庭と男と女

投稿者: | 2012年7月3日

日本は他の先進国に比べて女性の社会進出が遅れてるなんてことが言われたりするのですが、労働人口に占める女性の割合で見るとそれほど低くなかったりします。ただ、パートや派遣などの「非正規雇用」と呼ばれる形で雇用されている割合が女性に多く、管理職や経営者に女性が少ないのは事実です。
また、キャリアを捨てたくない女性が子供を持つことを諦めるのが少子化の一因になっているとして、少子化と女性の社会進出はセットで語られることが多いようです。
日本ではこうした問題は「女性の問題」と捉えられがちで、対策としても女性に対する職業訓練や就業支援、「働く女性をサポートする」保育所等の育児支援といったものが中心となります。敢えて日本では、としたのは、北米やヨーロッパではこうした社会全体の問題に対して対象を女性か男性かという性別で区別することは避けられる傾向があるからです。
欧米で性別による差別や役割分担がないのかと言えばもちろんそんなことはないのですが、ポリティカリーコレクトなタテマエとしてはなるべく性差を排除するのが正しいことになっているので、政治家や社会的に影響力のある人が「男だから~」とか「そもそも女は~」みたいな発言をするのはかなりの政治的リスクを伴います。日本はその点、大らかというか何というか…

色々な社会学的調査で指標とされる「標準モデル」の家族構成というのが子供2人の核家族、父親がフルタイムの勤め人で母親は専業主婦、みたいな感じで、バブルが弾けて「標準的」な家族がむしろ珍しくなった後も何となくこれが「あるべき姿」としてインプットされている人が多いように感じます。こうしたモデルが普通に成立していたのは戦後の高度経済成長期のごく一時期で、生活が豊かになり、経済成長による物価上昇を上回るペースで個人の所得が増え、労働市場が売り手市場という条件が重なって初めて実現したものです。仕事はいくらでもあるので父親は家庭を顧みることなく猛烈に働くことを要求され、必然的に家事、育児は母親が全てを担い、それでも所得が十分あるので多くの人はそれなりに幸せに暮らしていたわけです。
歴史を更に遡ると、江戸時代以前は人口の9割以上は農民で、生産性も低かったので男も女もなく大人は(場合によって子供も)全員労働力でした。明治以降に工業化が始まっても当初は大量の単純労働があり、労働市場は女性労働者を必要としていました。つまり、男が外で仕事、女は家事と育児という役割分担が一般的となったのは日本の歴史の中でもほんの数十年に過ぎず、伝統と呼べるようなものではありません。

日本の場合、結婚という形を取らずに子供を産み、育てるには様々な障壁があり、婚外子(非嫡出子)の割合は2%程度です。北欧諸国やフランスで過半数が婚外子であるのと比べると少なさが際立っています。なお、戦前の一時期には1割近くが婚外子だった時期もあるようです。
北欧やフランスの婚外子が全て片親かと言うとそうではなく、実質的に夫婦と変わらないカップルが敢えて結婚という手続を取っていないものがかなり含まれます。北欧などでは最近は正式に結婚していても女性が姓を変えないのが一般的で、社会保障や子供の就学についても結婚の有無で実質的な違いが何もないため、結婚という手続にこだわる人以外は特に理由がなくても、単に面倒だと言うだけで正式に結婚しないままということもよくあります。知人のデンマーク人カップルは結婚していなかったけど姓が同じでした。たまたま同じだったのか、結婚しなくても姓を変えられるのかは知りません。基本的にファーストネームの社会なので、姓はあまり重要視されていないように感じます。

結婚の形が違うだけでなく、離婚というか、結婚の有無に関係なくカップルが解消する割合も多いようです。正式な統計は知りませんし、そもそも元々結婚していない人達は統計に載ってこないのであまり意味のある比較はできませんが、私がデンマークにいたときに周りにいた20歳前後の人達の中で、自分の遺伝的な両親が現在もカップルでいる、というのは明らかに少数派でした。

北欧やフランスは人口の減少に歯止めをかけ、均衡状態または僅かながら増加に転じています。婚外子の割合が高い国と一致しているのは単なる偶然かもしれませんが、出生率の低下に歯止めが掛からない日本と比べると、いくつかの共通点が見えてきます。
まず、育児支援が充実していて、経済力がなく、親やパートナーの支援を当てにできない人でも子供を持つことができることです。保育施設や病児保育などが十分で、育児のためにキャリアを犠牲にする事が少なくて済むようになっています。私の知人(スウェーデン人)でも、公的支援だけで自分のアパートに住み、大学に通いながら子育てしているシングルマザーがいました。
今ひとつは、男性も女性も普通はバカみたいに働かないことです。大企業の上級管理職や、フランスのエリート官僚のように仕事漬けでいつ寝ているのか分からないような人ももちろんいますが、一般的には週に数時間程度以上の残業はせず、しっかりと休みも取るのが普通です。
日本では、共働き夫婦で共に正規雇用であっても、家事や育児の大半は女性が負担し、男性は「手伝い」に留まる場合が圧倒的多数です。これは意識だけの問題ではなく、雇用主が特に男性の雇用者に対して長時間の労働を半強制的に「期待」するため、男性は物理的に時間が取りにくいという事情もあります。これを解消しない限り、いくら女性向けの育児支援や母親向けの就業支援を拡充しても少子化の根本的な解決はあり得ないというのが私の考えです。
もう一つ付け加えると、日本は正規雇用と非正規雇用の格差が大きく、柔軟な勤務条件を選びにくいのです。ヨーロッパは職域や業務内容が同じであれば時間単価や福利厚生に差がないのが一般的で、子供が小さい間だけ勤務時間を減らしたり、育児休暇を取ったりするのが容易で、男性の利用も一般的です。日本でも制度としては時短勤務も育児休暇もありますが、男性がその後の昇進への影響を心配せずに利用できる環境は全く整っていません。

私がスウェーデンのストックホルムで短期間働いて…じゃなくて、NGOのお手伝いをしていた(実はこれでも就労ビザなしだとちょいグレー)頃、あるとき用事があって平日の昼間に郊外へ向かう電車に乗っていた時のことです。大きな公園のある駅で、ベビーカーを押した団体が楽しそうにおしゃべりしながら乗り込んできました。公園で赤ちゃんに日光浴をさせていたのでしょう。強く印象に残っているのは、そのほとんどが若いお父さん達だったことです。
これを見たとき、社会の成熟度の違いを見せつけられたように感じたのです。充実した社会保障にはコストが掛かりますし、一人当たりの労働時間が短いことは人口当たりGDPの低下に繋がります。貧しい国が豊かになる過程では、社会保障は抑え、皆ががむしゃらに働くのが早道で、日本はそうして経済大国になりました。
豊かになって少子化が顕在化した国が、豊かさを保ったまま持続可能な成長を続けるにはどうすればよいか。年2桁の成長を前提とした拡大政策では立ち行かないのは明らかです。そこで求められるのが、成熟した社会ではないでしょうか。
何でもヨーロッパのマネをすればいいわけじゃありませんが、少子化に歯止めをかけ、女性の労働力を無駄にせず、男も女も仕事と生活のバランスを保ち、余暇を楽しみ、年2~3%の緩やかな成長を維持するというのは 一つのお手本として参考になると思います。一人当たりエネルギー消費量では日本は大半の先進国より相当低いレベルを達成していて、地球環境も考えた持続可能性という点では世界をリードできる部分もあるでしょう。
色々な意味で未成熟なところの多い我々の祖国日本ですが、子供たちの世代が安心して暮らし、次の世代を育て、自分の国に誇りを持てるよう、今の大人は頑張ってアタマを使って 、社会のあり方、そのために個人はどうあるべきか、なんてことも真剣に考えるべきじゃないでしょうか。

少しずつ書き足しているので書いていることがぐちゃぐちゃですが、ちゃんと見直す気力がないのでとりあえずこのまま公開しちゃいます。

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