The Economist翻訳練習:次世代のスーパーモデル

投稿者: | 2013年2月5日

The next supermodel
Politicians from both right and left could learn from the Nordic countries
http://www.economist.com/news/leaders/21571136-politicians-both-right-and-left-could-learn-nordic-countries-next-supermodel
右の人も左の人も、北欧から学びましょう

政府の構造改革という点では、小さめの国が先駆けになる場合が多い。1980年代にはサッチャリズムと民営化のお陰でイギリスがぶっちぎりのトップだった。ちっぽけなシンガポールはずっと前から改革を試みる国々のお手本だ。今や、北欧の国々が似たような役割を担おうとしている。
その理由の一つは、北欧の主要な4国、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーとフィンランドが実際にかなり上手くやっていることだ。もし現代の世界のどこかで平均的な能力と収入で赤ちゃんからやり直せるとしたら、ヴァイキングになるのがいい。北欧人たちは、経済競争力から社会保障から幸福度に至るまで、大抵の項目でトップ集団を形成している。南欧みたいに硬化症に陥ることもないし、アメリカみたいにすさまじい不平等を生じることもない。開発理論の人たちは、近代化に成功することを「デンマークに到達」と呼ぶようになっている。そうして、かつては「DIY家具(訳註:IKEA)とABBAの国」だった地域は、今では更にThe Killing(訳註:邦題「闇に眠る美少女」、デンマーク産のドラマ。原題はForbrydelsen)とNoma(訳註:コペンハーゲンにある有名な北欧料理店)、Angry Birds(フィンランド産の大人気ゲーム)の文化的ふるさとになっている。

今週号の特集でも書いてある通り、タイミングがラッキーだったことも大きい。北欧諸国は賢明にも累積債務危機を1990年代に乗り切ったのだ。でも、北欧モデルが大人気なもう一つの理由はもっと興味深い。世界中の政治家、特に債務まみれの西側に、公共部門をどう改革し、国をずっと効率的で反応のよい状態にするための青写真を示してくれるのだ。

長くつ下のピッピから私立学校まで
北欧の政府のスマートなイメージは、社会主義の北欧を夢見るフランスの左派にも、バラク・オバマが「スウェーデン化」に夢中になるのではと恐れるアメリカの保守派にも、どちらにとってもショッキングなものになる。そんなのは時代遅れだ。1970年代と80年代には、北欧諸国は実際に増税路線まっしぐらだった。スウェーデンの公共支出は1993年にはGDPの67%に上った。「長くつ下のピッピ」の作者、アストリッド・ リンドグレーンは収入の100%以上を税金として支払わされた。でも、この増税路線は上手く行かなかった。1970年には世界4位の金持ち国だったスウェーデンは、1993年には14位まで転落してしまったのだ。
それ以来、北欧諸国は方向性を変えた。多くの場合右寄りに。スウェーデンのGDPに占める政府支出の割合はざっと18ポイント下がり、今やフランスより低く、そのうちイギリスより低くなるかもしれない。税率は下げられた。法人税率は22%で、アメリカよりずっと低い。北欧人たちは帳簿のバランスを取ることに専念したのだ。オバマ大統領と議会が公的給付の改革を巡ってドタバタを繰り返している間に、スウェーデンは年金制度の改革をやり遂げた。年金赤字はGDPの0.3%に過ぎない。アメリカは7%だ。
公共サービスについては、北欧人は一様に実利的だ。うまく回っているのなら、誰が提供しているかなんて気にしない。デンマークとノルウェーは私企業が公共病院を運営するのを許している。スウェーデンは全面的に教育バウチャー制度を取り入れ、私立の営利学校と公立学校が同じ土俵で競争している。デンマークもバウチャー制度を取り入れているが、一回限りの補給金という形だ。選択の幅という点では、ミルトン・フリードマン(訳註:ニューヨーク出身の経済学者。1976年ノーベル経済学賞受賞)ですらワシントンDCよりストックホルムに住みたいと思っただろう。
西側の政治家は、みんな透明性とテクノロジーの推進を主張している。北欧の政治家だって同じだが、彼らには実績があるので主張に正当性を持たせることができる。全ての学校と病院は、その業績が定量化されて評価されている。政府のあらゆる活動は白日の下で行わなければならない。スウェーデンでは誰でも公的記録にアクセスできるのだ。政治家が自転車を降りて公用リムジンに乗り込めば、即座に市民の知るところとなる。Skype(訳註:本拠地はルクセンブルクだけど元々はエストニアで開発。バルト3国は北欧に入りますか?バナナはおやつですか?)とSpotify(訳註:スウェーデン発の音楽配信サービス)の発祥の地は、電子政府の先駆者でもある。携帯電話のSMSで納税だってできるのだ。
サッチャリズムの強化版みたいに聞こえるかも知れないけど、北欧式では進歩的な左派にもメリットがある。つまり、資本主義的な競争原理と大きな政府を両立できるのだ。北欧では労働力の30%が公共部門に雇われている。OECDの平均は15%だ。彼らは頑強な自由貿易主義者で、国を象徴するような企業にでも保護介入の誘惑に打ち勝っている。スウェーデンではSaabが破産するに任せ、Volvoは今や中国のGeely(吉利汽車)傘下だ。一方で、ノルウェーの運用資産額6000億ドルの政府系ファンド(政府年金基金)に見られるように、長期的な効果も重視し、資本主義の厳しい弊害を和らげる方法を探っている。例えばデンマークではflexicurity(flexibility + security)と呼ばれる労働市場政策を採り、企業が労働者を解雇しやすくすると同時に手厚い失業者支援と職業訓練を提供している。フィンランドでは、ベンチャー資本がネットワークを組織している。

ヴァイキング料理の不味い部分
この新しい北欧モデルは決して完璧ではない。北欧諸国でのGDPに占める公共支出の割合はまだまだ望ましいレベルより高く、持続可能なレベルとは言えない。高すぎる税率はいまだに企業の国外流出を止められていない。ロンドンは、若く有能なスウェーデン人で溢れている。利益を享受できないところで生活している人-特に移民-がまだまだ多い。世界的な競争激化のような圧力のため政府は支出を縮小せざるを得ず、それがまた変化を産む。シンガポールに比べると、北欧は不相応に膨らみすぎ、利益の調査に十分な注意を払ってこなかった。

そうは言っても、北欧に関心を寄せる国はもっと増えるだろう。西側の国は遠からず大きな政府の限界に達するだろう。スウェーデンのように。アンゲラ・メルケルがEUの人口が世界の7%なのに、公共支出は世界の半分を占めることを心配しているとき、その答えの一部は北欧にある。北欧の成功は、EU諸国が経済において正真正銘の成功例になれるかもしれないことを示している。そして、福祉国家を目指すアジア諸国もまた、北欧に関心を持っている。中国は特にノルウェーに並ならぬ関心を持っている。

北欧人たちから学ぶべき教訓の中心は、概念的なものでなく実務的なものだ。国家というのはただ大きいだけでなく、ちゃんと機能して初めて魅力を持つのだ。スウェーデン人はカリフォルニア人より納税に前向きだが、それはちゃんとした教育と無料のヘルスケアが保障されているからだ。北欧人たちは、組合や経済ロビーを通り越してずっと広範囲な改革を成し遂げた。その証拠はそこにある。社会保障に市場メカニズムを注入して実効性を研ぎ澄ませたっていいし、公的給付制度が将来破綻しないようにしっかりした基金を組んだっていいのだ。ただし、強い意志を持って腐敗や癒着、既得権益を根絶しなければならない。そして、右派にしろ左派にしろ疲弊した正統主義は捨て去って、あらゆる政治的な方向性の中から良いアイディアを見つけ出すことをためらってはいけない。この先何年も、世界中が北欧モデルを勉強することになるだろう。

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