私は通勤にJRと大阪市営交通を使うので、ICOCAとPiTaPaを持っています。以前はよく東京にも行っていて、今年3月に共通化されるまではICOCAでは東京の地下鉄に乗れなかったので、PASMO代わりに東京に住んでいた時に定期として使っていたSuicaも持っていました。
国内の交通系IC乗車券や電子マネーはほとんどがソニーのFeliCaという技術を使っていて、基本的な仕様は同じはずです。ところが大阪のJRと市営地下鉄では、明らかに改札機の「感度」が違うのです。大阪市営交通と関西圏の私鉄各社が採用しているPiTaPaは、IC乗車券としては珍しく(おそらく全国唯一)ポストペイ方式です。ただし、JRとの相互利用のためチャージしてICOCAエリアではプリペイドとしても利用でき、またICOCAをPiTaPaエリアでポストペイで使う事もできます。この支払方式の違いのため、ほぼシームレスに相互利用できるSuica、PASMOと違ってICOCAとPiTaPaの相互利用には未だに様々な制限があります。とは言え、乗車券としてはほぼ完全に相互利用でき、この春からは全国のIC乗車券とも相互利用できるようになっています。
いくつかの改札機とIC乗車券の組み合わせを試した結果、「感度」の違いは乗車券には依存せず、リーダ・ライタ(鉄道では改札機)に依存することが分かりました。JRの改札機は感度が良く、市営交通のは悪いのです。市営交通以外のPiTaPaエリアの改札機はほとんど使ったことがないのですが、一部私鉄は市営交通以上に感度が悪いように感じました。東京ではメトロ、都営とも感度はJRと同じように感じました。
毎日の通勤で2種類のIC乗車券を使うので、パスケースの選択には気を遣います。IC乗車券はEdyなどの電子マネーとはアンテナ形状が違い、アンチコリジョンもあるため最大3枚の乗車券を同時に認識できるようになっているそうです。別路線の乗り継ぎや新幹線での利用を考慮しているのでしょう。ただし、支払が可能な乗車券を複数同時に認識した場合は、どちらから引き落とすか判断できないためエラーになります。そのため、電波を遮断する板を挟んで裏表に2枚のIC乗車券を収納できるパスケースが売られています。
非接触ICチップは微弱な電波を使って通信しますが、携帯電話に内蔵されているものと違ってカード型のものは電源を内蔵していないので、リーダ・ライタからの搬送波による電磁誘導でICに電力を供給しています。遮断版の反対側にあるIC乗車券は搬送波を受け取れないので通信に必要な電力を得られず、通信もできないというわけです。
JRの方はパスケースに入れたまま改札機にタッチすれば何の問題もなく使えるのですが、市営地下鉄ではどうやってもエラーが出るのです。ケースの表裏で違いがあるのかと入れ換えてみたり、カードの表裏を変えてみたり、色々試してみましたが効果がありません。結局、地下鉄の改札を通る時はパスケースからPiTaPaカードを7割ほど出した状態で、カードを直接改札機に触れるという方法で落ち着きました。IC乗車券の最大のメリットを殺してしまっているようで不満でしたが、他に方法が思い付かなかったのです。
不満に思いながらも数年間その方法で通勤していたのですが、先日思いも掛けなかった方法であっさり積年の不満か解消されたのです。教えてくれたのは、半年ほど前に赴任してきた新しい上司でした。数年前の私と同じ悩みを持った彼は同じように試行錯誤を重ね、しかし諦めることなく鮮やかな解決法を見出したのです。
その方法とは、ただ単にカードをタッチする向きを変えただけです。改札機のタッチする部分は、進行方向を向いて縦に長い楕円形をしています。何となくカードとセンサー部の接触面積が広い方が有利だと思い込んでいた私は、カードをタッチする時常に縦長、つまりカードの長辺を進行方向に向けてタッチしていました。これを90°回転して、横向きにタッチするだけでパスケースに入れたままでも問題なく反応するのです。
あらゆる事を試したつもりでしたが、たったそれだけのことを試していなかったのです。カード内のループアンテナがどちらかに長い形となっているのか、理由はよく分かりませんが、結果は実に単純です。
長いことエンジニアをやっていますが、この程度の事に気付けないとは情けない限りです。そして上司を改めて尊敬しました。こんなことで尊敬されても迷惑でしょうが。