最近はセルフサービスじゃないガソリンスタンドを探すのが難しいくらいセルフサービスが増えたので、自分の手で給油することに抵抗を感じなくなったドライバーも多いだろう。もっとも、スタンドの店員が全部やってくれるというのは世界的には少数派で、外国では昔からセルフサービスが一般的な国が多い。
学生の頃はアルバイトで色々な仕事をしていたが、その中でもガソリンスタンドの店員はかなり長いこと続けていた。消防法の改正で日本でセルフサービススタンドが初めて登場した時も、ガソリンスタンドで働いていた。そこそこに忙しいスタンドで、回転率を上げて売上を伸ばすため色々工夫もした。セルフサービスが一般的となった今となってはもはや何の役にも立たない、当時のロスト・テクノロジー(違)をここに記録したい。
ガソリンスタンドで回転率を上げるには、まずはスムーズな誘導が欠かせない。皆さん、自分の運転する車の給油口が左右どちらにあるか知っているだろうか。当たり前、と思う人も多いだろうが、実はそうでない人もたくさんいる。少なくとも当時はいた。普段あまり車を運転しない人だけでなく、自分の車以外(社用車、レンタカーなど)を運転している人、自分の車なんだけど家族と共用していて、給油はあまりしたことがない人など、色々な人がいる。給油口がどちらか分からなくて迷う人はまだマシだが、自信たっぷりに反対側に車を着ける人も珍しくない。だからこそ、無駄な車の移動を省き、お客様に嫌な思いをさせないためにも適切かつスムーズな誘導は大切なのだ。
当時は、車種によって給油口が左右どちらにあるのかをほぼ覚えていた。正面から一目見て車種を判別できるのは当然である。実際には、メーカーごとにある程度法則性があるのでそれほどの手間ではない。もうあらかた忘れてしまったが、例えば日産車はFFなら左、FRは右に給油口がある。ホンダ、三菱はほとんどどちらかに決まっていたように思う。トヨタは何の法則もなくバラバラで、車種ごとに覚えるしかなかった。欧州車はほとんど右側で、例外はメルセデスのゲレンデワーゲンくらいしか知らない。イギリスがどうだったか覚えてないが、ミニは左側だったと思う。
正しい給油位置に誘導したら、注文を聞いて会員カードなどを受け取る。その段になってまだ給油口の蓋が開いていなければ、蓋の開け方が分かっていない可能性が高い。声を掛け、お客様が探して2秒程度で見つからない場合は、「失礼します」と断ってドアを開け、リッドを開けてあげた方がいい。国産車ならよほど古い車以外は車内にリッドオープナーがある。運転席の右下、センターコンソール、メーターパネル下のどこかにあるので探すのは難しくない。外国車はキーで開けるのが一般的だ。知らないお客様は一生懸命リッドオープナーを探してしまうので、分かってないと判断したらすぐに声を掛けた方がいい。
給油中はエンジンを停止しなければならない。たまにエアコンが止まるのを嫌がってエンジンを掛けたままにしたがるお客様もいるが、一言お願いして聞かないようならそこはあまり気にする必要はない。ヤード内でタバコに火を付けたりしたら何を言われても警察を呼ぶ覚悟で阻止しなければならないが、エンジンを回しておくくらいはそれほどのリスクではない。
油種の間違いも気を付けなければならない。お客様の注文を間違えないのはもちろんだが、お客様が間違うこともあるのでそこはプロの判断が必要だ。ガソリン車に軽油を給油したりすれば、エンジンを壊してしまう危険がある。レギュラー仕様車にハイオクガソリンを給油するのは問題ないが、逆はしてはならない。国産車ならノックセンサーがしっかりしているのでそうそう壊れることはないが、欧州車は危ない。お客様に迷惑を掛けるだけでなく、高価な外車を壊してしまうと店も大変だ。
給油している間には、その時の忙しさに応じて最大限のサービスを心がける。窓ふき、ゴミの回収などだが、ここを如何に丁寧に、かつスピーディーにこなすかでお客様の印象、引いては再来店の確率に影響する。近隣の競合店と給油単価が同じであれば、このサービスの質が勝負を決めることになる。
店員も人の子なので、お客様の印象によって提供するサービスに差が出るのは仕方がない。自分が客の立場になる時は、そのことを思い出してサービスを提供する側にあまり悪い印象を与えないようにした方が、結局自分のためになる。
多少イヤな感じのお客様でも、綺麗な女性で、ミニスカートから下着がチラリと見えたりしたらそれだけで幸せな気分になってしまうのは悲しい男のサガというヤツである。なお、スポーツタイプなどのシート位置が低く、腰が低く沈み込むタイプはスカートの奥が見えやすいので見られたくない場合は注意されたい。私はよく知らないのだが、特に乗り降りの際はパンツが見えやすいらしいので注意されたい。よく知らないけど、運転席の右前の位置からは特に見えやすいらしいです。私はもちろんわざとそこに立ったりはしないので知りませんが。
文体が変わってしまった。いや別に動揺してないって。おほん。さて、「満タン」注文の場合、どこで給油を切るのかの判断も大切だ。給油ノズルの先にはセンサーが付いていて、液面が触れたら自動で給油が止まるようになっている。セルフサービスのスタンドでは、自動でストップした後の注ぎ足しは禁止している場合が多い。吹きこぼれる危険があるためだ。ただ、タンクの形状によってはまだかなり余裕があるのに跳ねた燃料にセンサーが反応して止まってしまう場合がある。特に経由は泡立ちやすいので、まだ10Lくらい入るところで止まったりする場合もある。勢い良く給油するほどその傾向が強く出るので、一旦止まった後に少し勢いを絞って再度給油すればより「満タン」に近づける。ただし、慣れていないと高い確率で吹きこぼすことになるので、セルフサービスのスタンドで実行するのはお勧めしない。
給油の最後の方は、メーターを見ながら切りの良い数字で止める店員が多い。個人的には意味がないと思っていたので、お客様がぴったりの数字を好むと分かっている場合以外はやらなかった。ただし、現金払いの場合は金額を切りのいい数字に合わせると釣り銭が少なくて済むので、そちらは調整していた。当時のメーターは消費税抜きの金額しか表示されないものだったので、税込みで切りのいい数字にするにはそれなりの計算(実際にはパターンの暗記)が必要になる。こちらがそんな操作をしているとは普通気付かないので、出てきた金額が切りのいい数字だと「おお、ぴったり」と嬉しそうにするお客様が多い。ただ、そこは状況次第で、給油が終わる前から小銭を出して準備しているようなお客様だと、わざと小銭が必要な金額で切ったりしていた。クレジットカード払いの場合はそんな配慮は無意味なので、なるべく給油口ギリギリまで満タンにすることだけを心がけた。
余裕があれば、エンジンルームの点検を勧めるのも大切なお仕事。これは言うまでもなく、クーラントやエンジンオイルなどの売上を狙ったセールストークだ。2013年の現在のように燃料単価が高ければ少しはマシかもしれないが、ガソリンスタンドという業種は燃料油だけを売っていては中々利益が出ない。どれだけ「油外収益」を増やせるかが業績に直結するのだ。私が働いていたスタンドでは、油外の売上に対しては誰が売ったのかを記録して、毎月の個人売上に対してインセンティブを支払っていた。
個人へのインセンティブは店員のモチベーションには繋がるが、各自が自分の売上だけを気にするようになると強引な販売となり、お客様の心証を害して客離れを招きかねない。点検させてもらった時にここぞと売り込むのではなく、「クーラントが減っていますよ。夏までには補充しておいた方がいいですよ」とか、「オイルが汚れてきています。前回の交換からまだそんなに走ってませんが、早めの交換をお願いします」など、次回以降の来店時に売上に繋げる方がよい。もちろんお客様が他の店やカー用品店などに流れてしまうかもしれないし、売上に繋がっても自分のインセンティブにはならないかもしれない。店員が自分のインセンティブより、お客様に喜んで頂くことを優先できるよう動機づけるのは、オーナーの力量だろう。
なお、ガソリンスタンドで燃料以外のものを買えば、カー用品店やホームセンターよりは割高になる。作業工賃はカー用品店でもあまり違わないが、製品の単価が高いのだ。給油のついでにできる、という利便性に対する付加価値なので、それはごまかすべきではないと思う。私はいつも、聞かれれば「オートバックスの方が安いですよ」と答えていた。
また、クーラントやウォッシャー液なら補充するだけなので技術も何もないが、オイル交換、タイヤ交換などは技術の未熟な人に当たるとドレンボルトの締付不良や不適切なタイヤバランスなど、大きなトラブルに繋がりかねないミスを犯されることがある。一般論として、作業数の多いカー用品店よりもガソリンスタンドの方がヘタクソな作業員に当たる危険は高い。私が勤めていたスタンドはピット作業が多く、整備士免許を持った店員も複数いて技術レベルは高かった。私自身、免許は持っていなかったが勉強は怠らなかったし、一般的なカー用品店の整備士に負けないだけの技術はあると自負していた。難しい位置のパンク修理などは自信を持って大丈夫と言えない場合もあるが、その場合は必ず正直に伝え、レシートに自分の名前を書いて渡し、不具合が出れば来店してもらえば自分がいない時でも無料で再修理することを約束していた。幸い、クレームを頂いたことはない。