J-phone時代からだから、もう随分と長い間ソフトバンクの携帯電話を使っている。当時は地域会社の間で色々融通が利かず、元々関西で契約していた回線を東京に引っ越してから機種変更するためには契約を移す必要があり、番号は変わらないものの付与されるメールアドレスのドメイン部分がjphone-k.ne.jpからjphone-t.ne.jpに変わったりした。これはvodafone時代になってからも同じだったけど、契約については全国一律で処理できるようになって、引っ越す度に契約を移す必要はなくなった。そのため、大阪に引っ越してからもずっと東京のドメイン名(vodafoneになってからはt.vodafone.ne.jpだったかな)を使っていた。ソフトバンクになってからは、ドメイン名から地域を表す文字が消えた。他社もだいたい似たような状況だったと思う。
ついでにもう一つ昔話をしておくと、更に昔のアナログ時代の携帯電話は地域会社の営業範囲を出れば同じグループであってもローミング扱いであり、ローミングエリアでは普段の番号では着信できず、090を080(だったかな?)に替えてダイヤルしてもらう必要があった。ローミングエリアから帰ってくるときに飛行機などで電源を切ってそのまま入れ忘れていると、実際には帰ってきているのに普段の番号にはいつまでもエリア外にいるから番号を変えてかけ直して下さいというアナウンスが流れることになった。それを逆手にとってアリバイ工作に使う人がいたりもした。ほんの20年ほど前の話だが、今から思えば大らかな時代だった。
さて、以上は本題ではなく、いつもながら無駄に長い前置きだったりする。長年使っていたソフトバンクの回線を解約し、MVNOのIIJという会社にMNPで移ったのだ。略号を一応説明しておくと、MVNOというのはMobile Virtual Network Operatorつまり仮想移動体通信事業者のことだ。自社で基地局などの設備を持っているわけではなく、他の事業者の設備を借りてサービスを提供しており、利用者から見ればその会社自前の通信網があるのと同じような感覚で使えるため「仮想」ということだ。MNPはMobile Number Portability、番号ポータビリティ(持ち運び制度)のモバイル版で、事業者を移っても同じ電話番号をそのまま使えるという制度だ。
2015年1月現在、日本国内のMVNOはほとんどがNTTdocomoの回線を利用している。今回新たに契約したIIJmioというサービスもdocomo回線だ。なお、IIJ(インターネットイニシアチブジャパン)という会社は日本で最初にインターネット接続事業を開始したISPだ。毎週火曜日に創業者で会長兼CEOの鈴木幸一氏が日経電子版に連載しているブログは面白く、いつも楽しみにしている。
数年前から「格安sim」などと紹介されるようになったMVNOによるサービスは、現在も多くがデータ通信専用だ。携帯電話やスマートフォンなどとは別にタブレットなどを持ち歩き、いつでもネットに接続したいという需要に応えるものだ。モバイルWiFiルータと組合せ、外出先でのパソコンのネット接続手段としての利用を想定したサービスもある。通信量や帯域によって月額1000円~3000円程度の価格帯のサービスが多いようだ。
2年ほど前から、通常の携帯電話と同じように通話も可能なサービスが出てきた。こちらはスマートフォンなどでメインの回線として利用することを想定しており、大手のキャリアから乗り換える際にはMNPで電話番号も引き継げるようになっている。
IIJmioで現在契約しているプランは音声通話可能なものとしては一番安いタイプで、基本料が月額1600円だ。これに通話料の他、通信量が一定量を超えた場合に追加するクーポンを買えばそれが加算されるが、自分の使い方ではまず2000円を超えることはないと思っている。ソフトバンクでは毎月6000円~7000円程度払っていたので、月々の料金はかなり安くなる。ただし、これには若干注意が必要だ。
大手キャリアは、回線契約と端末販売をセットで手がけている。そのため、iPhoneのように10万円近くするような高価なスマートフォンであっても初期費用がかからずに手に入れることができる。途中解約を防止するために2年間毎月一定額を利用料から割り引く仕組みが多いが、ちゃんと最後まで割引を受ければ実質的に端末価格の自己負担は4割程度で済む。一見割高な大手キャリアの利用料だが、その一部は端末の販売奨励金として利用者に還元されているのだ。
また、新規契約、特に他社からの乗り換えには数万円程度のキャッシュバックが行われることも多い。事業者にとっては契約数を増やす、特に同時にライバルの契約数を減らせる乗り換えについては初期コストを掛けてでも獲得したいのは当然だが、これは原資を負担している既存の利用者と還元を受ける人が別なので、不公平感が強くしばしば批判されている。
この仕組みを賢く使って2年毎にキャリアを乗り換えている人もいる。MNPを使えば電話番号は変わらないし、iPhoneのように複数のキャリアで扱っている端末なら使用感も変わらず、購入済のアプリやコンテンツが無駄になることもない。そういう人が増えれば、ずっと同じキャリアを使い続けている人はそれだけ損をすることになる。
事業者にとって本来有り難いはずのロイヤリティの高い顧客を冷遇し、浮気がちな顧客を結果的に厚遇することになるこの仕組みが健全だとは思わないが、ずっと指摘されながらも未だに続いていることを思えば、そう簡単にはなくならないのかも知れない。
MVNOでも専用端末を用意している場合があるが、大手キャリアのような豊富なラインアップはなく、基本的には端末は利用者が勝手に用意して下さい、というスタンスだ。販売奨励金のようなものもない。大手キャリアが販売している端末には他社の回線では使えないようにsimロックが掛かっているのが一般的だが、docomo回線を利用しているMVNOであればロックの掛かっていないsimロックフリーの端末の他、docomoが販売している(docomoのロックが掛かっている)端末もそのまま使う事ができる。ソフトバンク回線を使うMVNOサービスがあれば手持ちの端末がそのまま使えるので便利だったのだが、昨年少し噂にはなったけど結局話がまとまらなかったらしく、現在も実現していない。docomo以外の利用者がMVNOに乗り換える際には、キャリアの販売奨励金に頼らない端末の購入価格と合わせ、2年間の総支払額で比較する必要がある。
私の場合、解約手数料の掛からない契約更新時期が今年1月だったのでそのタイミングを待って乗り換えたが、端末は昨年10月にiPhone6をAppleから購入した。10万円弱なので24ヶ月で割れば月当たり4000円程度であり、月々の利用料が2000円だとすれば合計6000円となって実際にはそれほど安くなるわけではない。それでも乗り換えに踏み切ったのは、海外で現地のプリペイドsimが使えるsimロックフリーの端末を使えるというメリットと、今後端末の更新タイミングを自由に選べるメリットを重視したからだ。さらに、ここ数年のパターンとして私が2年置きにiPhoneの新型を買い、そのお下がりを太郎が使うことになっているのでその分の回線契約の選択肢を拡げるという意味もある。だから、誰にでもお勧めできるものではない。
もう一つの注意点は、いわゆるキャリアメールと呼ばれるメールアドレスはMNVOでは使えないということだ。メールアドレスそのものはいくらでも無料のものがあるし、携帯電話でキャリアメール以外をブロックしているという人も以前ほど多くはないだろう。ただ、iPhone限定の話になるがキャリアメールはMMS扱いになるため、メールアプリとは別のメッセージアプリで扱えるため、そこに利便性を見出している人もいるかもしれない。本来のMMSというのはSMS(電話番号でやりとりするショートメッセージ)の拡張版で、タイトルが付けられたり添付ファイルを送れたりできるようになっているが基本的には電話番号でやりとりするものだ。ところがSMSがキャリアをまたいで使えなかった時代が長く続いた日本では@のついたインターネットメールアドレスを使う携帯メールが普及し、MMSという共通仕様のサービスの出番がなくなってしまった。3大キャリアのうち、Vodafone時代にグローバル仕様のシステムを作っていたソフトバンクだけはMMSの仕様で携帯メールを実装しているが、docomoもauもMMSは結局採用していない。つまり、電話番号で(つまりiPhoneであればメッセージアプリで)MMSをやりとりできるのは、結局ソフトバンク同士だけというのが日本国内の現状だ。
現在の日本の大人にとって携帯電話は必須だし、スマートフォンが手放せないという人も多いだろう。その契約の仕方に自由度が増えて、様々なサービスを選べるようになるというのはとても良いことだと思う。ただ現状では、これまでのキャリア側から提案されているような使い方で特に不便も不満も感じていない人が、積極的に大手キャリアとの契約を解除してMVNOを利用するメリットは実感しにくいと思う。私のように、日本ではあまり一般的でない使い方に馴染んでしまっている人には良い時代になったものだ。国内で販売されていないNokiaの端末を取り寄せ、なんとかソフトバンク網で使えるように工夫していた事を思えば天国のようだ。あの頃、いつかはこんな風にならないかな、と夢見ていたことが、ほとんどそのまま実現できているのだから。