留守番電話

投稿者: | 2016年5月2日

最近twitterで140字以内の短文をお手軽に呟くという堕落した習慣にすっかり染まってしまって、まともに文章を書くという作業を(仕事以外では)あまりしなくなってしまった。このブログもすっかりご無沙汰である。久しぶりに書く度に言い訳だの近況報告だのをしていては先に進めないので、さっさと本題に入ろう。
さて、留守番電話である。今時の家庭用の固定電話で留守番電話の機能が付いていないものはまずないだろう。携帯電話しか使ったことのない世代にとっては留守電サービスというものは端末ではなくネットワーク側で提供するのが一般的と思われるかもしれないが、携帯電話でも第2世代くらいまでは端末側の機能しかないのが普通だったのだ。固定電話の場合は基本的に「圏外」も「電源が入っていません」も想定する必要がなく、通話中でない限り繋がるところまではほぼ確実に期待できる。ただし、そこに誰か必ず人がいるわけではないので、留守がちな家庭、特に一人暮らし世帯には「伝言を残す」ことのできる留守番電話機能が大きな需要がある、いや、あったのだ。
私が一人暮らしを始めたのは大学生の時で、当時(1990年代初頭)はまだ留守番電話機能のない電話機も普通にあって、学生向けの安下宿では自分専用の電話回線を引けないところもあったりしたけど、さすがにほとんどの下宿生は自分専用の電話回線と留守番電話を持っていた。電話回線も当時はNTTから加入権を買わなければならず、それが確か7万円くらいしたと思う。
留守番電話機能としては、記憶媒体はマイクロカセットが一般的だった。コンパクトカセット(いわゆるカセットテープ)、と言っても若い人は見たこともないだろうが、iPhone4くらいの大きさのカセットに収められた磁気テープが昭和の時代は音楽メディアとして広く普及していて、マイクロカセットはそれを1/4くらいのサイズにしたものだ。デフォルトの応答メッセージ数パターンの他に自作の応答メッセージも録音できるようになっているものが多く、それらはコンパクトカセットではなく本体内のICに記録するようになっていた。
最初から入っている応答メッセージは当然名乗らないので掛けてきた人にはちゃんと正しい宛先に掛かっているのかどうか判断できず、だからこそ女子学生などは敢えてそのまま使っている場合もあったりしたが、当時少なくとも私の周囲ではどこに掛かっているのか分かるようにちゃんと名乗って自分の声で応答メッセージを作るのが礼儀、みたいな風潮があり、女子を含めほとんどの友人、知人が自作の応答メッセージにしていた。
これは関西特有というか私の周りだけかもしれないが、どうせ自分の声で応答メッセージを作るのならありきたりのものではなく、何か一捻り入れるという工夫が尊ばれ、そのセンスを競って互いに切磋琢磨していたものだ。録音できる長さには限りがあるし、そもそも不必要に長い応答メッセージは用事があって電話してきた人にとっては迷惑以外の何物でもないため、簡潔に、かつ面白いメッセージというのがポイントとなる。
言葉だけで聞いた人を唸らせる、あるいは笑わせるメッセージを作るのは容易ではないが、効果音を使うと限られた尺の中でも表現できる世界がずっと拡がる。インターネットであらゆる音源が簡単に手に入る時代ではないのでほとんどの人はお気に入りの曲をバックに流す程度だったが、それでも曲のどの部分にメッセージを重ねるかとか、タイミングを計って色々工夫していたのだ。
私の友人の作例だが、ベートーベンの交響曲第5番「運命」を使って、「はい、○○です。今留守です」(じゃじゃじゃじゃーん)「留守なんです」(じゃ、じゃ、じゃ、じゃーん) みたいな演出をするのだ。この友人や私を含めた数人は「留守電の応答メッセージが面白い奴ら」と評判を頂いていたので、互いに負けられないと日々面白い音源作りに鎬を削っていたのだ。
効果音の音源はテレビやラジオから録音したり、効果音のCDを買ってきたり、自分で演奏したりするのだ。スタジアムの歓声が欲しくてカセットデッキを持ち込んだ事もある。音響機器なんてカセットデッキくらいしかないので、複数の音源を重ねたりするのは何度もオーバーダビングを繰り返して非常に手間が掛かる。そうして手間暇掛けて作った応答メッセージも新しいメッセージを作れば消えてしまう。儚いものだ。評判のよかったもの、評判はイマイチでも自分の中で会心の出来映えだったいくつかについては何かに録音して残しておけばよかった。すっかり忘れてしまったけど、勿体ないことをした。
一つ覚えているのは、テレビの特番か何かで帝国海軍の真珠湾攻撃と対米開戦を伝える大本営発表のラジオ放送が流れたのをたまたま録画していて、この音源をバックに12月8日から1週間限定で大本営発表の口調を真似た応答メッセージを使った時は、非常にウケがよかった。調子に乗って玉音放送を使った8月15日用も作ってはみたけど、さすがにこれは使わなかった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です