The Economist翻訳練習: ドイツのエネルギー巨人企業たち

投稿者: | 2012年6月25日

Germany’s energy giants
Don’t mention the atom
http://www.economist.com/node/21557363

原子力とは言わないが
電力会社の簡単ではない脱原子力への道筋

1年前に福島の災害を受けてドイツが2022年の原子力全廃を決めたとき、経済学者達は心配だった。2010年時点で電力の23%を供給していた17基の原子力発電所を再生可能エネルギーで代替するなんてできるのか?電気料金が跳ね上がりはしないか?ドイツの工業が危機的状況にならないか?

これらの答えが確定するのはまだ何年も先だろう。しかし、ドイツ人がEnergiewendeと呼ぶエネルギーUターン政策によって既に明らかになったことが1つある。国内に4つあり、昨年既に8基の原子力プラントの永久閉鎖に追い込まれたエネルギー巨人企業は揃って大きく業績を落としたことだ。彼らの運命は、原子力廃止を延期しようという異端の考えが復活するきっかけとなるかもしれない。

5年前には、4つの企業、E.ON、EnBW、RWEそしてVattenfallはカルテルだと広く認識されていた。4社で電力の86%を供給し、送配電網のほとんどを支配下に置き、高い利益率と株価を誇り、経営者達はベルリンの官庁街でももてはやされていた。つまり、エネルギー企業は繁栄を謳歌していたのだ。

しかし彼らの幸運は続かなかった。短期的には、2つのボディーブローを食らった。1つは欧州共同体(EC)が送電網の分離を要求したことだ。しかし、その効果はエネルギーUターン政策とごっちゃになってしまった。この政策は電力会社の最も予測しやすい利益の源を縮小させるものだからだ。全ての原子力発電所は2022年までに系統から切り離さなければならないが、停止してもしなくても毎年23億ユーロの核燃料税は2016年まで払い続けなければいけない。

同時に、助成を受けた何千もの風力発電と太陽光発電は既存の発電所の収益力を頼りないものにしている。日中のピーク需要時にはこれまでプレミア料金が適用されていたが、太陽光のために料金が下がってしまった。冬期の風は、柔軟性の低い発電所が得ていた余剰利益を吹き飛ばしてしまった。

追い打ちをかけるように、消費者と工業界は太陽光と風力が怠けている間にも電力会社に引き締めを要求している。昨年2月には、全ての原子力発電所がフル出力で運転していたにも関わらずギリギリの供給力しかなかった。

電力会社は新たな供給力を確保しなければならないが、原子力発電所と老朽化した火力発電所が廃止される中、何に投資するべきだろうか?洋上風力は高価な上に収入の予測が立てられない。安価なガス価格は、ガス火力の復活も不確実にしている。新型石炭火力が今は魅力的に見えるが、もし炭素排出税が高くなれば、そしてその確率は高いが、魅力はなくなる。結果的に、新規に建設する発電所の20年~30年先の投資に対するリターンを計算することはほぼ不可能な状態となっている。

かつての少数寡占における反対派が勝者となっているのは当然だろう。商業界のほとんど、電力会社自身ですら、原子力の段階的廃止には賛成している-少なくとも表向きは。電気料金が急激に上昇する恐れがあるにも関わらずだ。各種の予測によると、Uターン政策によって消費者電力料金は2020何までに20%から60%上昇すると見込まれている。更に、予備供給力を確保しておくには新たな従来型発電所への投資のために、更なる補助金が必要になるかもしれない。

エネルギーUターン政策が違法と判断される可能性もある。E.ONとRWEは、突然の原子力発電所の停止要求は施設の強制収用と同等だとして連邦憲法裁判所に提訴している。スウェーデン政府が所有するVattenfallは国外投資家として、ワシントンDCの仲裁による補償を求めている。ドイツ政府が直面するこれらの補償要求は、総額で最高150億ユーロに達するかもしれない。

ドイツで脱原子力の延期を公に口にする者はいないが、遠回しなロビー活動は完全に死に絶えることはない。ドイツ工業連合からの圧力で、経済省はUターン政策の方針修正の可能性を見越して”監視”する独立した手続を立ち上げた。ただし、「原子力」という言葉の使用は注意深く避けている。エネルギー依存の強い業界は特に、電気料金の上昇で競争力が損なわれることを心配している。ロビー団体のドイツ原子力評議会は、フランスに次いで高度なドイツの原子力専門技術が徐々に蝕まれることを警告している。残っている原子力発電所の運転と廃止処置にはこの専門技術が不可欠だが、既にドイツで原子力のキャリアを選ぶ動機は消え失せようとしている。例えばSiemensは、まだ原子力関連の機器を輸出しているものの、新たな原子力プロジェクトを積極的に受注しようとはしていない。

電力巨人企業はかつて代表的ドイツ企業(Deutschland AG)の顔として許しがたいものであったかもしれないが、彼らがすっかり弱ってしまった状態というのも全く望ましい結末ではない。ドイツは永遠に原子力発電に別れを告げたのだろうか?別の「Uターン」の議論もなくなることはない。

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