コーヒーには割とこだわりがあって、家ではドリップ用、エスプレッソ用にそれぞれ別の豆、挽き方のものを頼んでいる。ミルを使って自分で挽いていたこともあるが、消費ペースが十分速いので専門店で挽いてもらったものを買うようになった。
今の職場はコーヒーサーバーがないので、職場ではインスタントコーヒーで我慢している。カップの上にセットする1杯分のドリップセットのようなものを使っている人も多いけど、少しずつしかお湯を注げないので抽出に時間がかかるのがイヤで使っていない。こだわりと言っても、その程度である。
基本的にズボラな性格なので、面倒なことはなるべくやりたくない。給湯室などの共用スペースに私物を置くことは許されていないので、カップやコーヒーなどは全て自席に置いてある。最初の頃は自席でカップにインスタントコーヒーを入れ、カップとスプーンを持って給湯室に行き、お湯を注いでスプーンで混ぜた後、スプーンを軽く流して持って帰ってきていた。この工程の中で、まだ何か省略できないか考えてみた。
スプーンでインスタントコーヒーを掬ってカップに入れるだけであれば、スプーンはほとんど汚れない。目分量で直接カップにコーヒーを入れればスプーン自体が不要になるが、これは濃さのばらつきがあまりに大きくなったので断念した。あとは、お湯を注いだ後混ぜるという工程だ。これは本当に必要なのだろうか。
私は割と強めのコーヒーが好みだが、インスタントコーヒーはその気になれば私が飲んでいるよりずっと濃くできる。つまり私が飲んでいる濃さは飽和濃度より薄いわけだから、わざわざ混ぜなくても勝手に濃度は均一になるはずではないか。
いや待て、ちょっと待て。「溶ける」とか「濃度」とか不用意に言ってしまったが、そもそもコーヒーというのは水溶液だろうか。確かにろ紙は通過する。でも電解質か?電離してイオンになっているのか?それ以前に、「溶かす」ものを「混ぜる」というのはそもそも矛盾していないか。溶けているのか混ざっているのかどっちなんだ。日常会話では問題なくても、中学受験の理科ではバツになるではないか。
コーヒーの成分の中にはなるほど電解質もあるだろう。でも全てではないはずだ。では残りは何だ。長時間放置しておいても沈殿したりはしないので、何らかの拡散系には違いない。電解質でないとすれば、コロイドか。
分かった。コロイドだ。コロイドでいいじゃないか。コロイド溶液に飽和濃度なんて概念があるのかどうか知らないが、結果は同じはずだ。まだ溶ける…じゃなくて拡散する余地がある限り、水分子のブラウン運動で弾き飛ばされて均一に拡散し、カップの底に苦い塊が残ったりはしないはずだ。
というわけで、早速実験してみた。仮説を立証するためにはなるべくゆっくりとお湯を注いだ方が良いが、つまるところラクしてコーヒーが飲めれば下らん仮説なんてどうでもいいのでこぼさない程度に最大限勢いよくお湯を注ぐ。普通に5分くらいかけて飲み終わった時、果たしてカップの底には何も残っていなかった。味も多分最初から最後まで変わらなかったと思う。
以来、スプーンはインスタントコーヒーをカップに入れる時にしか使っていない。(つまり洗っていない)砂糖(これは電解質)もポーション(コロイドかな?)も入れずにブラックで飲んでいるけど、最終的に均一に溶ける(あるいは混ざる)量であれば十分な時間を置けば何もしなくても自然に均一になるはずだ。どなたか興味があればぜひ実験してみて欲しい。私は面倒だからやらないが。