先日、とある原子力発電所を見学する機会があったのでせっかくなのでレポートします。
火力発電所や原子力発電所は蒸気タービンを回して発電するので、大量の水が必要です。発電所が海辺に多いのは、海水を使えるのが大きな理由です。たろ父が見学した発電所もきれいな海辺にあり、すぐ近くの浜は夏になると海水浴客で賑わうそうです。冷却水として取水された海水は仕事をした後温排水として排出され、水温が取水時より6℃ほど高くなっています。もっともすぐに希釈され、発電所の敷地を出るときにはほぼ同じ水温に戻っています。
発電所の敷地外にある見学施設で説明を受けた後、電力会社のバスで構内に入りました。尚、最近はテロ対策の一環として一般の方の発電所内見学はできないようになっているそうです。門には可動式のバリケードが置かれ、入構する車は1台ずつチェックを受けます。バスの場合は警備の人がバスに乗り込んで、1人ずつIDのチェックをします。発電所内はセキュリティレベルや放射線レベルに応じて細かく区分けされ、制限のある区画への出入りはその都度ゲートでIDをチェックされます。今回は、管理区域に入って原子炉の中まで見せてもらいました。
管理区域というのは放射線量が厳しく管理されている区画で、出入りするときはセキュリティチェックだけでなく毎回放射線量のチェックも受け、各個人ごとの被曝線量が定められた基準を超えることがないよう厳密に管理されています。入り口ゲートでIDのチェックを受けた後、服を脱いで下着姿になります。その後別のゲートの前でポケット線量計を受け取ります。初代iPodくらいの大きさの機械で、被曝線量がデジタル表示されます。アラームも付いていて、設定された時間、あるいは線量に近づくとアラームが鳴るようになっています。ゲートでは1人ずつボックスに入り、バックグラウンド線量の測定を受けます。自然界に元々存在する放射線により、人体からも微量な放射線が出ています。入域前にこれを測定して、出域時と比較してその日の被曝線量を計算するわけです。
チェックが終わるとボックスの反対側が開いて、そこから先が管理区域です。洗濯済みの作業服や靴下、手袋、帽子などがサイズ別に置いてあるところで自分のサイズを選んで着込みます。ヘルメットや安全帯、各種工具なども管理区域内にあるものを使います。許可を受ければ持ち込みも可能ですが、持ち出すときには全て線量をチェックされ、汚染されていると持ち出せません。今回は見学だけで、停止中の原子炉を見るだけなので比較的軽装でしたが、除染作業などを行う場合は必要に応じてマスクや防護服を着用します。
見学が終わり、出域する前にまず身に付けている物を脱いで下着姿に戻ります。作業服や手袋などはまとめて洗濯され、洗濯廃液は低レベル放射性廃液として処理されます。その後洗面台のようなところでしっかり手を洗います。この時、顔は洗わないように注意されました。一番汚染されやすいのが手なので、顔を洗うと手に付いた汚染物質が口に入る危険があるからということでした。その後、またボックスに入って全身の線量チェックを受けます。このチェックで引っかかると、ゲートが開かず外に出してもらえません。放射線管理員が飛んできてシャワールームに連行され、徹底的に洗浄されることになります。それでも線量が検出される場合は内部被曝(放射性物質が体内に入ること)しているということなので、病院に連れて行かれてCTスキャンのような機械でチェックされ、県や国にも即座に報告されて大騒ぎになります。
今回はちゃんとゲートが開いて、たろ父を含め見学者全員無事に出してもらえました。当たり前だけど。その後、もう一度別のゲートでポケット線量計をセットしてその日の被曝線量をチェックして記録します。0.001ミリシーベルトまで計れるようですが、たろ父の被曝線量はゼロでした。尚、健康診断で胃のX線写真を撮ると0.6ミリシーベルトほど被曝します。アラームの設定値は0.8ミリシーベルトでした。日常的に管理区域に入って作業する人は1日の制限以外にも年間や5年間の被曝線量制限があり、個人ごとに管理されています。この情報は国や全国の放射性物質取扱い施設で共有されており、別の電力会社の別のプラントを渡り歩いても基準を超えては作業できないようになっています。
ポケット線量計を返し、服を着て、セキュリティゲートを通ってようやく管理区域の外に出ます。何もないとは分かっていても、無事に出た後はほっとしました。毎日のように管理区域で作業されている電力社員や作業員の皆様、本当にご苦労様です。
普段特に気にすることなく当たり前に電気を使い、電車に乗って生活していますがそれを維持するために多くの人が毎日大変な努力をしていることを改めて気付かされた貴重な体験でした。また、原子力発電所という放射性物質を扱う施設を安全に運営するため、何重にも安全策が講じられて厳格に運用されていることも実感できました。