きっかけは、太郎が父のハーモニカで遊んでいてプラスチック製のケースを壊してしまったことらしい。まぁ、よくあることである。母親の所へ壊れたケースを持ってきた太郎の第一声は「たろうくんじゃないよ」だった。ほな誰やねん、というツッコミも大切だが、ここはやはり怒るべきところだ。このところ強情っぱりになってなかなか「ごめんなさい」が言えない。で、この時も素直には謝れずに更に怒られ、大泣きした挙げ句母はパソコン部屋(という名の物置き)に閉じ籠もってしまった。少し前までこの閉じ籠もりの効果は絶大で、これをやったら最後、太郎は部屋の前でわんわん泣いて、泣き疲れた頃に入れてやると素直に抱かれてめでたく仲直り、というパターンだった。これが最近通用しなくなってきた。強くなったものだ、と後から話を聞いているだけの父は暢気に思えるのだが、実際にふて腐れたチビさんを前にすると小憎たらしいことこの上ない。
自分の非を認めるのがどうにも我慢できないらしく、泣きもせずに一人で黙々と遊んでいるのだ。もちろん気にはなっているから遊びに没頭できるわけではない。半時間ほどして様子を見に行くと、不自然にお尻を突き出した格好で遊んでいた。部屋の中に微かに漂うウンチの薫り。座ってしまうと気持ちが悪いのは分かっているので、ずっとその格好でいたらしい。母の姿を認めると、黙ってお尻を突き出してきた。このチビいっぺんしばいたろか、と思うのを堪えつつ、ウンチの始末をして、風呂に入れて、風呂の中でちょっと意地悪してもう一回泣かせて、ようやく仲直りしたらしい。
しかしまぁ強情なチビである。「ありがとう」は抵抗なく言えるのに、「ごめんなさい」はよっぽど言いたくないらしい。朝になって(父の帰宅は深夜だったので太郎は既に寝ていた)、改めて壊れたケースを見せて問い質したが、「たろうくんがこわしちゃった」とは認めたものの、「ごめんなさい」は言おうとしない。両親が二人がかりで散々なだめたり脅したりして、ようやく蚊の泣くような声で謝るのに10分程もかかっただろうか。
あー、赤ちゃんの頃が懐かしい。